〔連載:クリエイターのお仕事インタビュー #002〕
取材・テキスト:中山 薫
LINE FukuokaでLINE公式着せかえのディレクションとマネジメントを担当する佐藤徹也さん。広告制作会社のグラフィックデザイナーから同社に転職、「世界中の人に幸せを届ける仕事」に携わるようになり、プレッシャーを感じつつも楽しく働いているそうです。
[profile]
佐藤徹也さん
LINE Fukuoka株式会社
クリエイティブビジネスセンター
クリエイティブ室 デザインチーム
1980年生まれ、福岡市出身・在住。福岡市の短期大学に進学し、ビジュアルデザイン科専攻。卒業後、市内の中堅広告制作会社に入社し、地元企業を中心に、全国規模の広告案件を担当。のちにスポーツ球団やアーティストのグッズを扱うメーカーに転職し、商品企画・デザインを行う。フリーランスの期間を挟み、たまたま知人から声をかけられて採用面接を受け、2015年にLINE Fukuokaに入社。
--LINEアプリがリリースされて2021年6月で10周年を迎えたそうですね。国内の月間アクティブユーザーが8,900万人(2021年6月時点)と聞いて驚きました! さっそくですが、LINE Fukuokaに入社するまでの経緯を教えてください。
佐藤:学生時代、まだパソコンを取り入れたカリキュラムが少なく、アナログで絵を描いたり、紙媒体のデザインを学んでいました。新卒で入った中堅広告制作会社では、広告、パッケージ、エディトリアルなど紙媒体が中心でした。また、スポットで玩具雑貨の商品企画や、それにまつわる販促物などの制作にも携わっていました。
その後、フリーランスで仕事をしていたときに、LINE Fukuokaの採用担当をしている知人から「LINE GAMEのバナーや広告のデザインに興味ないか?」と聞かれ、仕事のオファーだと思って「あります!」と答えたら、なぜか採用面接を受けることになって(笑)。入社して5年半、楽しく仕事をしています。
--具体的にはどんなことをしているんですか?
佐藤:デザインパートのスーパーバイザーという立場で、LINE公式着せかえのデザインのディレクションと、進行に関するマネジメント業務をしています。
着せかえデザイン担当は僕を入れて9名。すべて内制で、月平均で12〜14本ほどの新作をリリースしています。使うソフトは9割がPhotoshop。Illustratorはクライアントの素材を調整するときに使います。
--ではグラフィックデザインとは全然違う仕事なんですね。
佐藤:僕はもともとキャラクターを商品に落とし込む仕事がすごく好きだったので、それをダイレクトに制作できるようになり、とてもやりがいを感じています。個人的な見解ではありますが、キャラクターには人を幸せにする力があると信じており、また、その幸せを届けるメッセンジャーとしての役割を担っている存在なのではないかと思っています。
個人的に好きなのはトムとジェリーやEsso boyなど、アメリカのヴィンテージキャラクター。LINE FRIENDSのキャラクターではサリー(黄色い鳥)がいちばん好きですね。
--LINE公式着せかえはいつ頃、どんなターゲットイメージで追加されたんですか?
佐藤:2013年、日本、台湾、韓国、タイなど、おもにアジア圏を対象に追加されました。ターゲット層は絞り込まず、老若男女すべての人に受け入れてもらえるような作品選びやデザインを基本としています。
--それは意外です。コンテンツ制作はまずペルソナ設定(ターゲットの人物像を具体的に設定すること)をするものだと思っていました。
佐藤:LINEはその逆で、リリース当初から誰にでも使いやすいシンプルなアプリを目指してきており、その結果、年齢、国籍、性別を問わず多くの方々に使っていただけるようになりました。
--とはいえ、着せかえは利便性を高める機能ではなく、ユーザーの楽しみを増すためのサービスですよね。
佐藤:はい。いくら万人が使いやすいものを作ったとしても、1人1人の好みは異なるものだと思います。そこで "パーソナライズ"という視点から生まれたのがLINE公式着せかえです。
おかげさまで、現時点においてもさまざまなキャラクターのLINE公式着せかえを多数リリースさせていただいておりますので、きっとこの記事を読んでいただけている方にも、喜んでもらえるような着せかえデザインがあるかもしれませんね(笑)。
--確かに、自分が好きなものに着せかえると愛着が増します! おもにどんな人が使っていますか?
佐藤:コアユーザー層は20〜30代の女性になります。推しの作品やキャラクターの着せかえを購入後、リピーターになっていただけるケースも多くみられます。そのため、新作をリリースするときは「前作の着せかえよりも魅力的だから今回の着せかえも購入したい」と思ってもらえるものになるようにするにはどうすれば良いかを考えながら、スタッフ全員で制作にあたっています。
ファン数を横軸に拡大できるよう、また、より一層ファンになってもらえるよう縦軸での深化を常に意識して取り組んでいます。ゆくゆくは男性にもファンの多いキャラクターや作品にも携われたらうれしいですね。
--紙媒体との違いで戸惑ったこともあるのでは。
佐藤:色を使って奥行きを表すという紙媒体での経験はそのまま生かされていますが、ギャップが大きかったのは、端末には光があるということでした。紙のカラー印刷はCMYK(色素による表現法)で行いますが、映像表示はRGB(光による表現法)で行います。光によって目に負担がかかるということを、すごくデリケートな問題として捉え、慎重に色選びをしています。
--LINE公式着せかえのデザインで特に重要なことは?
佐藤:LINEを使用するうえで、ユーザーにとって最も重要な要素は文字情報なので、デザインをする上で十分な可読性(読みやすさ)を保つ必要があります。たとえば背景色がデザインとしてバランスがとれているか、ハレーションを起こしていないか、色の組み合わせとして違和感のないものになっているかなど、総合的に判断して制作しています。
--視認性(見やすさ)の面でも、色は重要ですよね。
佐藤:端末の場合、機種、画面のサイズ、文字の大きさなどが極めて多様であり、基準をひと括りに統一してしまうことは不可能なため、普及している人気端末の中でも、最も平均的な見え方なのはこの辺りのモデルではないかということを、チーム内で時々ディスカッションしています。
それと、じつは僕、色弱でして。生活には支障ないのですが、面積が小さくなると緑と赤、青と紫の区別がつきづらくなることがよくあります。そのため、自分が見やすいと判断できる色使いであれば、少なくとも似た境遇の方にとっては見えづらいものではないだろうとは考えることは多かったりします。
--確かにそうだと思います! キャラクターの色やタッチはどうやって決めているんですか?
佐藤:過去の傾向や市場のトレンドを見ながら決めていくことが多いですね。認知度や人気の高いキャラクターでも、原作テイストだったり、現代のアニメ風なテイストであったり、子どもや若い女性に好まれるゆるかわテイスト等いろいろなタッチがあると思いますが、これは単にビジュアルが違うというだけじゃなくて、それぞれにファンの年齢層や、歴史の長さが異なるケースが多く見られます。
そのため、今回はより若い女性層に好まれるデザインでリリースしたいとなれば、ターゲットに好まれやすい表現やタッチはどのあたりなのか等のリサーチを行い、メンバー同士でディスカッションをしながら方向性を決めていきます。
--トレンドはどうやって把握するんですか?
佐藤:LINE公式着せかえで扱う作品は若い女性が求めるものが多いので、有名企業のキャラクター大賞やその他ランキング、ファッショントレンドに関するものや、新作アイテム情報などはよくチェックするようにしています。他のサービスの着せかえデザインがどういう表現をしているかチェックすることも割と多いです。
色はJAFCAやPantoneが毎年選定するトレンドカラーを参考にするほか、キャラクター商品はシリーズごとにテーマカラーがあったりするので、人気がある色や、メーカー側が推している色などを把握したうえで協議しています。
--2021年の傾向は?
佐藤:ここ最近で顕著にみられるのは、極力シンプルなデザインのものが好まれやすいという点です。2020年秋に数年ぶりに復活し、今年になってからも継続してリリースしている弊社オリジナルのカラーシリーズがあるのですが、お陰様でそれがすごく好評をいただいておりまして、中でもシャーベットカラーやライトグレイッシュ系のように優しさや落ち着きのある色が特に人気です。また、デザイン自体もシンプルなため、視認性や可読性の高さも人気の理由の一つだと考えています。
--今後の展望をお聞かせください。
佐藤:これは実装の有無という意味ではなく、あくまで個人的な見解ではあるのですが、これからのLINE公式着せかえの新しい仕様として、アニメーションやカスタマイズ機能のようなものが追加された未来がくるかもしれません。かく言う自分自身も、実現すると良いなあと願う人間の1人です。
その時には、どういうモーションにしたら楽しげに見えるのか、どんなカスタマイズができるとより楽しいサービスになるのかなど、考えるだけでもワクワクします。そういったワクワク感は、エンタメの源泉になるものだと考えているのですが、エンタメサービスに携わる人間の1人として、今後もより幅広いニーズや知識をインプットしていきつつ、LINE公式着せかえを介して、多くの方々に「うれしい」や「楽しい」をお届けできるよう取り組んでいきたいと思います。
世界中の人々の目に触れるものを作っているので、緊張やプレッシャーはかなりありますが、それさえも楽しみながら進んでいけると最高です。
LINEクリエイターズ着せかえ 制作ガイドライン
https://creator.line.me/ja/guideline/theme/
LINE Fukuoka 採用情報
https://linefukuoka.co.jp/ja/career/creative
2021.08.16