和風の便せんやカード、テキスタイルのデザインは どんな人がやっているの?
デザイナー・コラージュ作家 おのみちこ

連載:クリエイターのお仕事インタビュー #001

           

和風の便せんやカード、テキスタイルのデザインは どんな人がやっているの?
デザイナー・コラージュ作家 おのみちこ

〔連載:クリエイターのお仕事インタビュー #001〕

取材・テキスト:中山 薫

*この記事に掲載している作品は、すべておのみちこさんの作品であり、著作権で保護されています。無許可の転載、複製、転用等は法律により罰せられます。


文房具メーカーで和風の便せんやカードのデザインを手掛けた経験をもとに、自身の名前でブランド製品を展開した経験を持つおのみちこさん。現在はクラフト系のコラージュ作家・イラストやクラフト作品を専門とするギャラリーショップ"ONO* ATELIER & SPACE"(オー・エヌ・オー)のオーナーとして、忙しい毎日を過ごしています。

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一部の作品についてはWebサイトで紹介しています(http://onomichiko.com/atelier/collage-top/

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コラージュ作家 おのみちこ

京都市の文房具店に生まれ育つ。1991年京都精華大学美術学部卒(造形学科 日本画専攻)。同年、東京の文房具メーカーに就職、和風の便せん・グリーティングカードのデザインに携わる。1996年に独立し、2001年から「おのみちこ」のブランドで10年間、ファブリック製品や和小物のデザインを手がける。2009年から自然の素材を使用したコラージュ作品の創作を開始。2013年3月、親族が経営していた文房具店を改装し、アトリエ、ショップ、ギャラリーを併設した"ONO* ATELIER & SPACE"(オー・エヌ・オー) をオープン。

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--就職先として文房具メーカーを選んだ理由は?

おの:親族(父と叔父)が文房具店を営んでいて、子どもの頃から文房具に囲まれたお店の空間が大好きでした。東京に出て働いていた姉のところへ遊びにいったときに、もともと興味を持っていた文房具メーカーの就職セミナーがあったので、それを受けたことがきっかけで入社しました。

スヌーピーのグリーティングカードで知られている日本ホールマークという会社ですが、私が入社した当時はイソップという名前の小さな会社でした。デザイン企画部という部署に配属され、デザイナーとして仕事をしていました。

--どんな文房具のデザインをされていたんですか?

おの:私が京都出身で、しかも日本画を勉強していたため、社長から「和風の商品を確立してほしい」と言われて、百貨店で販売される和風のグリーティングカード、レターセット、一筆箋などのデザインをしていました。色柄だけでなく、サイズや紙質を提案することもありました。

--マーケットが求めているものを知る方法とは?

おの:ひたすら店頭を見て回るということです。もともと文房具が大好きで、マーケットがどういうものを求めているかを知りたくてしょうがないタイプでもあるので。私の理想は、お客様になった気持ちで店頭を見たときに、魅力的な商品がたくさん並んでいるなかに違和感なく置かれて、しかもその中から選んで手に取ってもらえるようなものです。

それを意識して仕事をしているうちに、和風の商品がどんどん売れるようになってきました。当時は和風のカードや便せんが珍しかったこともあって急激にブームになり、絵柄を描く仕事に追われるようになりました。この仕事をしたことで、多くの人に好まれる絵柄がどういうものか、よりよくわかるようになったとも思います。

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--おのさんのように文房具のデザイナーになるには、どうしたらいいんでしょうか?

おの:昔と比べれば手描きで文字を書く人は減りましたが、メーカーは常にデザイナーを探しています。私のギャラリーで展示をしていた作家さんがメーカーからスカウトされたケースもありますが、まずはデザイナーやイラストレーターとしてメーカーに勤めて、コツを覚えてから独立する人が多いと思います。

人が使うものなので、デザイナーの主張が出てしまうようだと仕事としては難しいかもしれません。また、日本は季節の移り変わりがあるので、春夏秋冬の絵柄がサッと描けることなどが求められます。

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2021年春に開催した「コラージュ三人展COVER」での新作展示風景


--入社して5年で独立された理由は?

おの:大学1年のときに発症した難病が悪化して通勤が難しくなったためです。また、まちがいなく和風の商品を確立したという達成感もありましたし、当時は会社から独立して"お抱えデザイナー"として仕事をする人が多く、珍しいことではありませんでした。

--ご自分のお名前でブランドを展開することになったきっかけは?

おの:伊藤忠ファッションシステムというコンサルテイング会社の方からお声掛けをいただいたんです。10年間のライセンス契約で、ふろしきや浴衣など2〜3社のメーカーから自分の名前の商品を出させていただきました。"おのみちこ"のターゲット層はSybilla と同じで、20〜30代の女性。「庶民的でかわいい日本女性の魅力を引き出す」というコンセプトに基づいて、テキスタイル・デザインを提供していました。

--すごいですね! 簡単にできることではないと思います。

おの:本当にありがたいことだと思います。「浴衣のデザインをやってみませんか」と言われて単純に「やりたい!」と受けたところから始まって、ふろしきやリビング・ファブリックと広がっていく流れはあったんですが・・・。もともと自分の名前を出したいと思って仕事をしてきたわけではないし、ファッションの世界でまったく経験のない私が作家のような扱いをされることへの違和感もありました。それがだんだん大きくなって、契約を延長することはありませんでした。

--京都に戻られた経緯は?

おの:体調が悪くなって一人暮らしが難しくなり、親元(滋賀県大津市)で療養することになったんです。そのときはまだブランドの仕事がありましたが、他の仕事は継続できなくなりました。そんなときに、親族から文房具店を閉店すると聞かされて。京都に出れば何か新しい仕事ができるかもしれないと考えて、私が建物と土地と受け継ぐことにし、広さを生かしてギャラリーショップをオープンするに至りました。体調のほうも、この頃に飲み始めた新しい薬がよく効いて安定するようになったので、問題なく運営できています。

--東京を離れて感じたことは?

おの:仕事は東京のほうがたくさんあるし、ヒントになるものをたくさん見られるのも東京。また、私がやりたい仕事は東京(都会)にあるとも感じます。いっぽうで京都は伝統工芸など素晴らしいものがたくさんあるので、そういうものを見て目を肥やすことができるという利点がありますね。

--ギャラリーショップのオーナーとしてたいへんなことは?

おの:東京にいるときからクラフト作家さんの展覧会を見て回るのが好きだったこともあり、ギャラリーの運営は楽しいことばかりです。ただ、スタッフを抱えるゆとりがないので、すべて1人でやらなければなりません。ウェブサイトもワードプレスを使って、ゼロから自分で作りました。新型コロナウイルスの感染拡大でショップの売上の約8割がネットになっていて、そちらもおろそかにできません。販売と創作は相反するものなので、頭を切り替えるのがたいへんです。

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おのみちこOffical Website http://onomichiko.com/atelier/


--フリーランスとしても、たいへんなことが多いかと思います。

おの:確かに会社にいるほうが楽なこともあると思いますが、私の場合はフリーランスが向いていたと思います。会社の中にいたら自分の意思では動けないことも多々あるし、納得できないことがあってもやらなければなりません。フリーランスなら自分に無理だと思うことはやらなくていいし、自分で決めたことなら後悔することもなく、すっきりした気持ちでいられます。

--コラージュ作家として活動するようになって、以前と違うことは?

おの:いちばん大きく違うのは、メーカーさんから求められるものをつくるのではなく、自分がつくりたいものをつくっている点です。私のコラージュ作品を紙製品のデザインに使いたいと言ってくださるメーカーさんがあって、4年ほど前から自分の名前でお仕事をさせていただいています。ブランドの仕事のときと違って今度は私が好きなようにつくっているものなので、自分の名前で出すことにも違和感がなくなりました。

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fourseazons_下(部分).jpgfour seasons」 秋に発売される2022年版カレンダー表紙のための四季をリース状にデザインした作品(2連作)。アイボリーのリネン生地をベースに、染め和紙・刺繍糸・ビーズを貼り合わせて制作

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燕ペイズリー」 20代の頃、ペーターズギャラリー(原宿)での個展に出展したアクリル画(ブランドでのファブリック図案として制作した作品でもあります)を、コラージュとしてリメイク制作した最近の新作。藍色に染めた燕をかたどった和紙を楮(こうぞ)紙に貼り、刺繍糸とビーズで装飾

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韮畑(ハクセキレイ)」 花咲く美しい韮(にら)畑に、えさを求めて歩き回るハクセキレイの姿。故郷のよく通る場所の情景を描写した、のどかな風景画。浅葱色(あさぎいろ)のリネン生地に、染め和紙で韮と鳥の形を作り、刺繍糸とビーズでふわふわした花の蕊(しべ)を表現

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冬の森(ジョウビタキ)」 枯れ枝に固い新芽がつき始め、この時季にやってくるジョウビタキがせわしなくついばむ姿。スペース休館中の冬の寒い日、制作の合間に散歩しているときによく見る風景を描写したもの。ガーゼリネン生地にネル生地やフエルト、和紙などを貼り合わせて表現


また、以前は和風の仕事ばかりでしたが、いまは和でも洋でもなく、「いま日本で暮らしている女性が日本を感じてくれるもの」という視点で作品づくりをしています。私はもともとアーティスト志向ではなくて、たとえば「このスペースに展示するならどんなものがいいかな」というような発想で、みんなが「あったらいいな」と思うようなものを形にしているので、マーケッターの目線なのかもしれません。

子どもの頃に大好きだった場所にいま自分がいて、そこで働いているというのはまったくの偶然ですが、京都にきてからいろいろなことがうまくいくようになり、いまはとても幸せな気持ちです。そしてまたチャンスがあれば、東京でも仕事がしたいと思っています。

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葉室鱗『螢草』(双葉社より2012年刊)の装画(コラージュ作品)


2021.06.29

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