内野いずみ(IS NEAR)

           

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内野いずみ(IS NEAR)
現場本質を凝縮したシンプルなデザインで
人々の感性に訴える

構成=野口真弥 Noguchi Maya 文=中山薫 Nakayama Kaoru 写真=モンジサチ Monji Sachi(NORS Photographica)


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PROFILE
内野いずみ / Izumi Uchino(写真右)
IS NEAR代表取締役(共同代表)。JPDA日本パッケージデザイン協会会員。鹿児島県生まれ。九州産業大学造形短期大学部卒業後、福岡や東京のデザイン事務所でグラフィックやパッケージのデザインを多く手掛け、2013年より鹿児島県の種子島にて「案図舎」としてフリーランスで活動。2022年6月、一級建築士の夫・内野康平(写真左)と共に株式会社IS NEARを設立。




// I N T E R V I E W //


九州の種子島に本社を構え、福岡を拠点に事業を展開するIS NEAR。
夫婦で個別に運営していたデザイン事務所と一級建築士事務所を統合して誕生した。共同代表の内野いずみ(以下:内野)に、設立1周年を迎えての思いや今後の展望などを伺った。

建築や物事に付随する
デザイン、ブランディングが強み

商品開発から入っていけるパッケージデザインの仕事を続けるうちに、ネーミングやコピーなども任されるようになったという内野。IS NEARを設立したことで、さらに領域が広がっている。
「建物に付随したデザインはもちろん、店舗の名称やコピー、ロゴなど、ブランディングのご相談を受けるケースが増えてきました。『こんなことがやりたい』というぼんやりしたイメージを、言葉(コピー)やビジュアルイメージによって明確化すると、目的や意識が一つになりやすいと思います」

仕事をする上で明里が最も大事に考えているのが、クライアントへのヒアリングだ。デザインの力を必要としていても、具体的にどうしたいか明確なイメージを持っている依頼主は稀と言っていい。それでも根気強く対話を重ねて行くと、相手の頭の中で漠然としていたイメージが、次第に形を成して行くのが手に取るようにわかるという。

「デザインのことはわからないのでお任せします、という方もいます。でも例えばこちらから敢えて大きく振った提案をしてみたりすると、いやそれはちょっと、とか、感想や意見が必ず出てくるんです。それを糸口にいろいろ質問して相手の想いを引き出し、言語化していく。デザイナーには組み立てる力はもちろん必要ですが、まずはアウトプットの前に、相手の想いや課題を顕在化することが重要な役割だと思いますし、お客様が自分事として主体的に考えることに意義があると思っています」

五感をフル稼働させて
本質を伝えるための最適解を導き出す

建物に付随するデザインは、さまざまな顧客に長く愛されるものでなくてはならない。そのためには土地の歴史や文化を知ることも重要だ。さらに周辺の環境とも調和するデザインが求められる。

パッケージやグラフィックはターゲットを絞り込み、売り場や使われるシチュエーションなどを意識してデザインするが、「建物の場合はそうした手法を取ると一過性のもので終わってしまう」という。そのため、数値や分析から入らないよう常に意識している。

「現地へ行くと『この辺にこんなものがあると楽しくなる』『このくらいの大きさだと収まりがいい』といったイメージが湧いてくるので、それをベースにして、トレンド、顧客の目線、クライアントのニーズや好みなどを考慮し、本質を伝えるために最適と思われるものを形にしていきます」

サインを設置する位置やサインのサイズ、ロゴの太さ・大きさなども、現地でいろいろな距離や角度から見てイメージする。最終的に実寸でプリントして検証を行うが、感覚に基づいて試作したものと大きな誤差はないという。

「韓国のホテル"ULDOLSOLI"は日韓にとってやや複雑な歴史を持つ土地だったにも関わらず、コンペで選んでいただくことができました。言葉が通じない分、どういうターゲットにどう見せたいかを意識しました」

内野の思いは常に「デザインによって街や人が楽しくなる」ことに向いている。商品やサービスの本質が的確に伝わるようデザインすれば、それに響く人たちが集まって色をつけ、ブランドを育てていってくれる。さまざまな場所でそこにしかない物語が紡がれていくような仕事に、一生涯をかけて取り組みたいと考えている。

// W O R K S //

旬蒸terrace
観光施設ブランディング 鹿児島県 2023年
CL:高槻電器工業株式会社

南九州市知覧町に2024年1月オープン予定。高槻電器工業株式会社が南九州市と立地協定を結んで手掛けている観光施設で、レストランと物販エリアで構成。
地産地消をテーマに、自社製品のLEDライトを活用して栽培するトマト「薩摩甘照」や、契約農家から仕入れる新鮮野菜などを使い、南九州ならではの郷土料理「スメ(蒸し料理)」を提供する。

【ロゴ】
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料理のイメージを視覚的に伝えるロゴデザイン。今っぽさを感じさせるすっきりしたロゴ案を多く出したが、力強さを前面に出した案が選ばれた。センター合わせでもシンメトリーでもない、絶妙なアンバランスさにこだわっている(※ロゴは、オープンに向けて現在もディティールを調整中)。

【完成イメージ】

isnear_syunsyun2.jpg建物の設計から店舗のネーミング、サイン、内外装のデザインまで、総合的なブランディングを手掛けた。屋根を広く設けることで建物の中と外の境界線をあえて曖昧にしており、周りの景観に馴染む設計となっている。


ULDOLSOLI

宿泊施設リニューアル 韓国 2022年
CL:海南郡(Haenam)

韓国・右水営観光地の宿泊施設リニューアル。陸地側との間にある海峡・ウルドルモクを一望できる場所に位置する。2024年度に建設予定。

【ロゴ】
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ロゴタイプもシンプルな形状で作成。また、○を◎で表現することにより、物理的な「渦」と感覚的な「 良質 」を表現している。文字の中にも少し隙間を持たせることにより、ULDOLSOLI での時間のゆとりと、音や風の通り道を表現している。徹底してバランスの良さにこだわり、数値だけで設計せず、鏡に映す、反転させる、パーツを減らしてみるなど、さまざまな検証を行い、微調整を繰り返して完成させている。

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シンボルマークは、山と海と渦と音の波形モチーフに作成。より伝わりやすく、長く愛されるデザインになるようシンプルに仕上げた。少し空間を持たせることにより、音や風の通り道であることを表現。また無限の形を取り入れ、今までとこれからの歴史が永遠に続くことを伝えている。

【館内サイン】

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館内のサインも内野が担当。現地のトレンドをリサーチしたうえで配色やフォントなどを決めた。場所の歴史の背景を建物の雰囲気に反映させるために、素材に鉄を使い、版築で施工することを提案。



- IS NEAR 自社運営の活動 -


IS NEARは宿泊施設やカフェの自社運営も行っている。企画・設計・ブランディング・デザインもすべて自分たちで手掛けている。宿泊施設はいずれも古い建物をリノベーションした一棟貸しタイプ。自社の仕事がきっかけで縁ができたカフェからコーヒー豆を仕入れるなど、人とのつながりもどんどん広がっている。

●88 is near

現在、福岡のオフィスとして使用しているビルを新たに1棟貸しのホテルとして2023年7月にオープンさせる予定。出張や観光の拠点として人気の高い中洲駅から徒歩5分と好立地。「建築とデザイン」をコンセプトに、いろいろな人が集まる場所にしたいと考えている。

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併設予定のカフェで使うパッケージなども内野がデザインを担当(下・画像はイメージ)。

99 is near

2022年制作。鹿児島県西之表市東町99。西之表港から徒歩10分。種子島空港から車で20分。古民家を改装した一棟貸しの宿。IS NEARが運営する1棟貸し宿泊施設の1つ。室内に配置するカードのデザインも、シンプルにまとめた。
設備情報はピクトグラムによって視覚で瞬時に理解できるようにし、コピーではあえてイメージのみを伝えることで興味を持たせ、想像が膨らむようにしている。

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※この記事はMOOK「デザインノートPremium最強のロゴデザイン」の特集Creator in the Spotlightを再編集したものです。

2023.07.13

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