〔NO.005〕
文=杉瀬由希 Yuki Sugise 写真=梅田健太 Kenta Umeda
// P R O F I L E //
伊藤岳 Gaku Ito
アートディレクター、グラフィックデザイナーデザイン事務所にてNHK Eテレ番組内ゲーム等のUIデザインに携わり、2012年AOI Proに入社。アートディレクターとして様々なナショナルクライアントの広告ビジュアルの制作に従事。デザイン領域は、広告、音楽アートワーク、 ドラマや映画のキービジュアルなど多岐に渡る。広告+アーティストのコンセプトメイクの部分から、意志のあるクリエイティブをデザインしている。「マキシマムザホルモン」「WurtS」「Nulbarich」「Negicco」等のアートワークや、Newbalanceの広告ビジュアルのデザインを担当。
クリエイティブを武器に総合的なマーケティングコミュニケーションを提供する「ANREAL STUDIO」で、アートディレクターとして活動する伊藤岳。広告や音楽関係などのグラフィック、映像を中心に、コンセプトメイクからディレクション、デザインまでを手掛ける彼に、仕事におけるテーマや将来のビジョンについて話を聞いた。
紙媒体と映像の領域を横断したビジュアルメイクを得意とする伊藤。特に最近は音楽系の仕事が多く、これまでにWurtSやTani Yuuki、マキシム ザ ホルモン、ヤングスキニーなどのCDジャケットやMVのアートディレクションを手掛けてきた。つくり手の意志を込めつつ、CDを聴いた人にジャケットも曲の一部と感じてもらえるような、曲を感じるデザインが理想と語る。
「ビジュアルは、散歩しながら音楽を聴いている時に浮かぶことが多いですね。自然体でいる時間の中でこそ、本当に伝えたいものが見えてくる気がします。クライアントやアーティストから明確なイメージをいただくこともありますが、僕の一番重要な役割は、その‟思い"をどうデザインに落とし込めば、見る人の心にまっすぐ届くかを考えることです」
早く現場を知りたいと美大在学中からデザイン事務所でアルバイトに勤しみ、卒業後は複数の会社でグラフィックやUIやCM制作など、さまざまな分野でスキルを磨いてきた。どんな案件でも大切にしてきたのは、〝誰のために、何を伝えるか〟という視点だ。現在はANREAL STUDIOに参加して2年になるが、企画からデザインまで一貫して携わることも多く、自分の考えや思いを形にできる環境にやりがいを感じているという。
「広告制作という仕事には、大きな可能性があると思っています。ただ情報を届けるだけではなく、誰かの行動を後押ししたり、気持ちを前向きにしたりできる。だからこそ、僕は〝意志を持ったデザイン〟を常に意識しています。一つひとつの表現にクライアントの思いと自分の信念を込めた制作を積み重ね、人の心に深く残るものをつくりたいと思っています」
新潟発のご当地アイドルNegiccoやプロバスケットボールチーム長崎ヴェルカのCSR活動のブランディングなどのローカルワークも意欲的に手掛け、その土地の伝統や文化に触れる中で、最近は「地域」に可能性を見出し関心を深めている。
「最新技術やトレンドも大切ですが、数百年続く塩引き鮭の製法を知った時のような‟本物の感動"を、広告というフィルターを通して伝えていけたら嬉しいですね。広告には地域の価値を再発見し、それを未来に繋げる力がある。クリエイティブの力を信じているからこそ、僕はこれからも挑戦をし続けたいと思っています。企業や人、ブランドが持っている思いをもっと深く、もっと丁寧に伝えていけるように。そして、見る人の心にしっかり届くように。"意志を持ったデザイン"を軸に、広告の力でできることを、これからも探し続けていきます」
■静岡競輪 「KEIRIN GRAND PRIX 2024 SHIZUOKA」(2024年)
「KEIRIN GRAND PRIX 2024 SHIZUOKA」のキービジュアルと動画を担当。公営ではあるがギャンブルという性質上、射幸心を煽るような表現をしてはいけないという制約を踏まえ、他の競技ファンにも熱量の高さが伝わるビジュアルを企画から提案した。コンセプトは「人生を廻せ」。競艇や競馬とは異なり、モーターも動物も使わない人力のみの競技である点に着目し、ペダルを廻しながら進んでいく力に人生や社会を重ねたキャッチコピーと共に、人間臭さと自転車の鉄の質感をモノクロで力強く訴求した。メインビジュアルには静岡を象徴する富士山や火花などをコラージュ。動画は実際の車輪の回転音とスラップギターの弦を弾く音だけで構成した音楽で、高まる緊張感や迫力を伝えている。
キービジュアル
動画
屋外広告:展開例
■WurtSアーティスト写真(2023年)
WurtSのアーティスト写真。WurtS自身がアートワークや映像をセルフプロデュースするため、伊藤はそのイメージを実現するためにサポートしている。本人が80 〜90年代の音楽や映画を好み、宇宙や惑星にいるようなビジュアルを希望したことから、映画『DUNE 砂の惑星』をヒントに、宇宙服のようなヘルメットや砂漠を月面に見立てた撮影を提案。ロケ地は静岡県の中田島砂丘に決め、あらかじめ現地で位置や撮り方を確認し、凸凹した砂の表情にもリアリティを追求した。WurtSアーティスト写真(2023年)
■ニューバランス キャンペーン広告(2023年)
ニューバランスのキャンペーン広告。ポスター、映像、特設サイトなどをトータルで制作した。キッズから大人まで幅広い層に愛されているロングセラーモデル「996」シリーズは、その履き心地の良さやさまざまなシーンで活躍するデザインから、頼れる「相棒」の意味を込め「MyBuddy996」をテーマに制作。DISHを起用した23年秋冬シーズン「ココロオドル時間」は、アパレルにもフォーカス。服のロゴの見え方が重要だったため、ラフに沿ってスタンドイン撮影した写真を仮合成し、各メンバーの立ち位置や体の向きなどを決めて本番に臨んだ。
ニューバランスDISHコラボ「アパレルシリーズ」ポスター
ニューバランス「996シリーズ」ポスター
店頭広告:展開例