未来へ届け。気鋭のデザイン事務所「白い立体」が手がける桑沢デザイン研究所・学校案内に込めた思い

1954年の創立当初から、歴史と教育理念が色濃く表現されている桑沢の学校案内は、亀倉雄策や田中一光などもデザインを担当したことがある。

未来へ届け。気鋭のデザイン事務所「白い立体」が手がける桑沢デザイン研究所・学校案内に込めた思い

1954年の創立当初から、歴史と教育理念が色濃く表現されている桑沢の学校案内は、亀倉雄策や田中一光などもデザインを担当したことがある。2024年〜2026年度版は、さまざまな書籍・雑誌・図録のブックデザインで活躍する「白い立体」が手がけている。「本の可能性を広げたい」と話す代表の吉田昌平さんは桑沢の夜間部卒業生。在学中の学びやデザインのこだわり、本の未来についてお話を伺った。

文=七緒 Nao 写真=梅田健太 Umeda Kenta

メインカット_1.jpg

【Profile】
白い立体

吉田昌平(写真・中央)
1985年生まれ。広島県出身。桑沢デザイン研究所専攻デザイン科(夜間部)ビジュアルデザイン専攻卒業後、デザイン事務所・株式会社ナカムラグラフを経て、2016年白い立体として独立。雑誌・書籍のデザインや展覧会ビジュアルのアートディレクションなどを中心に活動。その他に、紙や本を主な素材としたコラージュ作品を数多く制作・発表する。作品集に『KASABUTA』(WALL 2013年)、『Shinjuku(Collage)』(numabooks2017年)、『Trans-Siberian Railway』( 白い立体 2021年)

田中有美(写真・右)
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科テキスタイル専攻卒業後、2018 年「白い立体」へ入社。

水野沙耶(写真・左)
桑沢デザイン研究所専攻デザイン科(夜間部)卒業後、2022年「白い立体」へ入社。

// I N T E R V I E W //


――吉田さんは書籍・雑誌などのデザインや、紙や本を素材としたコラージュ作品などで活躍されていますね。まずは桑沢でデザインを学ぼうと決めたきっかけを聞かせてください。

吉田:もともと広島の美術短大で彫刻を学んでいましたが、将来について考えた時、デザインを生業にしたい想いが強くなっていったんです。高校卒業と同時にMacを買い、イラストレータなどのソフトを使って自主制作していたのも楽しくて。
 当時は業界について何の知識もなかったけれど、デザインを学ぶなら東京かつ夜間がいいと思っていたため、思い切って飛び込みました。


――学校生活を振り返り、今につながっている学びはありますか?

吉田:桑沢に入学したことで「本や紙って面白い」という今の自分につながる道が拓けました。本ならではの佇まい、紙の質感、手を動かす喜びに気づいたのは在学中でしたから。
 桑沢は、第一線で活躍する人が教えに来てくれる機会も多くて。リアルな現場の話を聴けたり、悩み相談ができたのもありがたかったです。


――卒業後、デザイン事務所でのご経験を経て、2006年に『白い立体』として独立されたとのことですが、2024年度版から担当されている桑沢の学校案内について、デザインのこだわりを教えてください。

2024.jpeg
吉田:僕はエディトリアル畑なので「本の可能性を広げたい」という気持ちが第一にありました。若い人がどのくらい本を読むか分からないけれど、ページをめくる高揚感やこんなことができるんだ!という驚きを感じられる造本にしたくて。2024年度版の学校案内はそれが一番明確に出ていると思います。一冊の中で本文用紙や判型にさまざまな変化をつけたことで、「次は何が出てくる?」と楽しさを感じてもらえる仕上がりとなりました。

田中:複雑な構成だったので、台割やページネーションに頭を悩ませた記憶があります。白い立体に在籍する中で、一番難しかった制作物かもしれません(笑)。

水野:当時、私は桑沢の学生でしたが「とんでもない学校案内を作っているらしい」という噂を耳にしていました。

吉田:今は廃盤になってしまった紙も多く使っており、記録的な意義もある一冊になったと思います。


――2025年度版の学校案内は、新聞紙ならではの質感や仕様がとても新鮮ですね。

2025_1.jpg

吉田:本の可能性というコンセプトはそのままに、もう少しシンプルなものを目指しました。そこで浮かびあがってきたアイデアが「新聞」。新聞を読まなくなっている時代だからこそ、残したい気持ちも強くて。端っこにある小さな丸とギザギザの断裁面という新聞紙ならではの佇まいを活かし、実際に新聞を印刷している輪転機で刷ってもらいました。


――本とは異なるめくり心地で、手の先から伝わってくるものがあります。デザインでこだわった点はありますか?

吉田:‟ずれ"を散りばめています。新聞は折りたたんで製本するから、そもそもちょっとずれるじゃないですか。紙もざらざらしているし、きっちり揃えすぎなくていいと思って。断裁されて見えないトンボをあえて残したり、写真の位置も上下でずらしたり。揃っていなくとも美しいと感じとってもらえるようなデザインを目指してます。


――最後に2026年度版のこだわりを聞かせてください。

2026_1.jpg2026年版学校案内_追加写真_1.jpg
吉田:ここまでの2年は造本設計からデザインを組み立てましたが、2026年度版はどう内容を見せるかの編集からスタートしました。桑沢は昼間部も夜間部もあり、カリキュラムも幅広いため、全体を理解しやすくしたくて。思い切って内容ごとに分冊し、ファイルに綴じました。説明会資料や個人的な思い出も綴じて、残しておきたいものになればと。

田中:どんどんアイデアが湧き出てくるから、毎年ボリュームが多くなってしまって。今回は分冊で分かりやすくしようという話にまとまりましたね。

吉田:デザイン学校なので「ここでデザインを目指したい」と思ってもらえる本であることを大事にしていて。それゆえ多岐にわたるアイデアを受け止めてくれる桑沢という学校だからこそできたデザインだと思います。


――ちなみに水野さんは桑沢の夜間部を卒業した後、2022年に白い立体に入社したんですよね。

水野:もともと吉田さんのデザインが好きだったんです。2022年に開かれた展示に伺った際に「働かせてください」と直接伝えました。

吉田:水野はもともと看護師で、そこからデザインをやりたいという志もいいなと思ったんです。田中もテキスタイルデザイン専攻卒だし、バラバラ感が面白いなって。

水野:一緒に働く中で日々学ぶことばかりです。小さなデザインであっても時間をかけて突き詰める姿を目の当たりにし、日々ファンになっています。

吉田:本当ですか?(笑)。

水野:本当です(笑)。


――さまざまなメディアや発信方法がある今の時代において、吉田さんが考える本の魅力を教えてもらえますか?

吉田:やっぱり形に残ることでしょうか。データは不意に消えるかもしれないけど、未来に残ることが本の魅力だし、本という存在をも残したい気持ちが強いです。
 最近、リニューアルを手がけた雑誌『暮しの手帖』では、昔の活版の飾り罫を誌面に活かし、懐かしいようで新しい表現に挑戦しました。活版も版が無くなると途絶えてしまうので...。
 今、紙の種類もどんどん限られてきています。発色や軽さなどのスペックに重きが置かれる一方で失われていく何かがある。自分なりにできることをやっていきたいです。


――最後にデザインを志すみなさんへメッセージをお願いします。

吉田:本は作れば作るほど上手になっていきます。文字組み、製本、印刷...経験を重ねることで、新たな視点が見えてくる。最近は個人でも本を作りやすくなっていますよね。縮小していく業界かもしれませんが、僕らも頑張るので一緒に盛り上げていけたらうれしいです。僕はコツコツ型なので、粘り強く地道にやれば夢は叶うと信じています。


―――――――――――――――――――――

2026年度 学校案内書 資料請求受付中
https://www.kds.ac.jp/request/

開学当初から70年間の桑沢デザイン研究所学校案内書アーカイブ
https://www.kds.ac.jp/schoolguide-archive/

―――――――――――――――――――――

新教育プログラム始動「Kuwasawa Design Studio」
桑沢デザイン研究所では、2025年9月から別科「KuwasawaDesign Studio」という夜間の新教育プログラムを始動します。対象は、社会人や学生など一般の方々。第1弾の「メディア創造コース」では、「映像」や「音響」と出会い直し、日々の暮らしに新たな視点を提供します。

Kuwasawa Design Studio メディア創造コース
18時30分~ 21時10分/水曜日 週1回/2025年9月開講 申込期間:6月1日~ 8月上旬

―――――――――――――――――――――

桑沢デザイン研究所
1954年に設立された、日本初のデザイン学校。ドイツのバウハウスをモデルとして発足して以来、そのカリキュラムは常に時代を反映してきた。夜間部は、2年間という短い期間でありながら、専門課程にふさわしい「教育水準の高さ」を維持した教育内容で、働きながら学びたいというニーズにも応える。

昼間部◎総合デザイン科〈昼間部3年制〉
    ビジュアルデザイン専攻/プロダクトデザイン専攻/ 
    スペースデザイン専攻/ファッションデザイン専攻
夜間部◎専攻デザイン科〈夜間部2年制〉
    ビジュアルデザイン専攻/プロダクトデザイン専攻/ 
    スペースデザイン専攻]
夜間附帯教育〈1年〉基礎造形専攻/基礎デザイン専攻




デザインノート
アイデア
イラストノート