多様な学生が集まり、互いに刺激を受け合ってデザインを学ぶ

           
多様な学生が集まり、互いに刺激を受け合ってデザインを学ぶ
桑沢デザイン研究所 夜間部

文=中山薫 Nakayama Kaoru 写真=梅田健太 Umeda Kenta

高校や大学を卒業後に入学した人、社会人経験を積んだうえで働きながらキャリアアップ、キャリアチェンジを目指す人――。
「自分が本当にやりたいことは何か」。改めて自己と向き合いながらビジュアルデザインを学ぶ社会人学生2人と、
VD分野責任者の鈴木一成先生に桑沢で学ぶ意義や楽しさについて聞いた。

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左/前田(まえだ)さん  右/大吉紗央里(おおよしさおり)さん



【PROFILE】
大吉紗央里(おおよしさおり)さん
夜間部 ビジュアルデザイン専攻 2 年 
ニューヨークの短期大学で銀塩写真を学び、帰国後は制作会社のディレクターを経て2015年よりフリーランスのライター・編集者として活動開始。主に企業の広報物の制作に携わっている。企画、編集、取材・執筆まで担当する中で、新たな分野への挑戦としてデザインも自分で担えるようになりたいと考え、桑沢デザイン研究所に入学。

前田(まえだ)さん
夜間部 ビジュアルデザイン専攻 2 年 
大学卒業後、広告制作代理店に就職し、プロデューサー部門に配属される。日々デザインに触れるうちに、自ら手を動かしたい想いが強くなったところに新型コロナウイルスの世界的流行が直撃。当たり前のことが当たり前ではなくなる日々を過ごすなか、後悔しない生き方をしようと決意し退職。デザイナーになるべく桑沢デザイン研究所に入学。

// INTERVIEW //

鈴木:2人とも社会人で、クリエイティブの仕事を経験していますね。桑沢でビジュアルデザインを学ぼうと思った理由を聞かせてください。

前田:私は広告制作代理店に就職したんですが、デザイナーとして自分で文字などをデザインしてみたいという思いが強くなり、会社を辞めて受験しました。2年前に桑沢の夜間部に通っていた友人がいて、基礎から学べることや、多様な人が集まるから刺激がもらえるという話を聞いて、私も桑沢で学んでみたいと思いました。

大吉:私は6年ほど会社員として働いた後でフリーランスになりましたが、フリーになってからの年数のほうが長くなるにつれ、良くも悪くも仕事が楽にこなせるようになってきたんです。このままだとモチベーションが下がっていくんじゃないかと不安を覚えるようになりました。そこでさらに上を目指すのか、新しい領域に挑戦するかを検討し、新たにデザインを学ぼうと決めました。デザインの基礎が学べて、働きながら通えるところというと桑沢しか考えられず、1年間で学費を貯めて受験しました。

鈴木:コロナ禍でオンライン授業のみになった年もありましたが、皆さんは入学時から対面授業を受けています。学内外での交流も活発になっているようですね。

大吉:サークルに入っている人もいますし、私のクラスでは卒業アルバム制作委員会を立ち上げてグループワークをしています。合同授業では他のクラスの人たちと話す機会もあり、一緒に展示を見にいくなど、学外でも交流しています。去年の桑沢祭では私は銀塩写真を出品したほか、桑マートという物販ブースで販売もしました。在校生、卒業生以外に全く関係のない人も来るので、忖度のないシビアな反応が見られて良かったです。

鈴木:1年次の授業はどうでしたか? VDは色・形という、あらゆる分野のデザインに共通する基礎的な部分を身につける授業が中心でした。

大吉:基礎造形はめちゃくちゃ楽しかったです。タイポグラフィは専門知識が必要不可欠な領域だと思っていましたが、豊島晶先生の授業を受けたら文字のデザインがとても自由で楽しいものだとわかりました。他にも勝手に思い込んでいたことがたくさんありました。デザイナーはクライアントの要望に対して、決められた期間や予算の中で応える仕事だと思っていましたが、それは最低ラインであって、もっと高みがあったんだと。

前田:自分で決めつけていることを、1回まっさらにしないといけないんですよね。

鈴木:「いったん思い込みを捨てなさい」ということはよく言っています。「捨てないなら壊していきますよ」と(笑)。

photo_1.jpg鈴木一成(すずきかずしげ)先生  VD(ビジュアルデザイン)分野 分野責任者

前田:私は1年次の授業で体験することの大切さを知り、そのうえで3月のバウハウス・ツアー(※)に参加しました。桑沢=バウハウスというイメージがあって入学したこともあり、どんなことをしていた場所なのか、どんな街で生まれたのかなどを実際に見ることができたことは大きかったです。

※バウハウス・ツアー:2023年度に国際交流活動として実施した研修旅行。全学から希望者を募り、バウハウスにゆかりの深いドイツの都市を巡ってバウハウスのデザインと教育を深く学んだ。訪れたのはワイマール、
デッサウ、ベルリンの3都市。世界遺産でもあるデッサウのバウハウス校舎では学生寮に泊まり、教室で授業を受け、全員がバウハウスの舞台でパフォーマンスを行った。

鈴木:ツアーでは短期間で造形の端緒から舞台パフォーマンスをつくり上げるワークショップが行われます。昼間部や、違う分野の学生も参加しますが、行くとみんなびっくりするんです(笑)。

前田:向こうに行ったら「まずは空気を感じなさい」と言われて、「?」というところから始まって(笑)、自分で感じた空気のカタチをつくる、そのカタチにタイトルをつけるというようなことをやるんです。私は広告会社にいたこともあって、「どうしたら他の人とかぶらないか」ということに囚われがちでしたが、このワークショップで自分が出したアウトプットは誰ともかぶらなかったんです。隣の人も、誰ともかぶっていませんでした。この経験から、自分が感じるものは最初からオンリーワンなんだということを知りました。桑沢で教えていることは、こういうことなんだなと思いました。

鈴木:オンリーワンのものは、最初から自分の中にあるんです。ただ、そこに基礎造形力が伴っていないと、恣意的なもの、わざとらしいものになってしまう。そこを100本ノックのような授業で鍛えていくのが桑沢の教育です。




大吉:私は最初の3本くらいで打ちのめされました(笑)。フリーランスなので時間の融通はきくほうですが、それでも課題がめちゃくちゃきついです。おおよそのアタリをつけてスケジューリングしていますが、すべて思ったようにいかない。

鈴木:ビジュアルデザインは社会的な消費サイクルがとても早いので、他の専攻よりも課題が多いんです。月曜はビジュアル、火曜はアドバタイジング、水曜はパッケージ、木曜はエディトリアル、金曜はウェブと、曜日ごとに課題が出されます。実際の仕事でも、夜話していて「それ面白いから明日の昼までにまとめて提案して」というようなことがあるわけで、スピード感をもって決断する力も必要です。それを身につけていくためのカリキュラムともいえます。

大吉:無茶苦茶やってもいいから面白いものをつくるようにしています。大ケガすることもありますが。講評の時にクラスメイトが同じ条件で制作した40枚の作品が並ぶと、自分のクセやアラも含めて、どこがどうだったか相対的にわかります。クラスには海外出身の学生もいて、全く視点の異なるものを出してきます。これはとても貴重な経験だと思います。

鈴木:文化的な背景の違いは知っておいたほうがいいですね。世界を相手に仕事できる可能性が広がっている時代なので、そういうことも視野に入れて学んでもらいたいです。

前田:私は架空の広告を考えるような課題は得意ですが、白紙の状態から自由につくることがとても苦手だということがわかりました。「どこに向かって走れいいんだ!!」となってしまいます。タイプフェイス(書体)の授業や文字を書くことが好きで、「この雰囲気ならこの文字かな」というところから入り始めるたちなで......。

鈴木:文字が好きなら、入り口はとにかく文字にすると決めてみてもいいと思います。まず言葉を決めて、それから文字(書体)を考えるとか。

前田:自分なりの方法を見つけるということですね。ドイツのワークショップのお陰で、少しずつ克服できてきているとは思います。

鈴木:基礎造形力を叩き込んだうえで、自分の基準をどうつくるか。桑沢ではそれを教育しています。 資本主義経済において、時代はどんどん効率重視の方向に向かっていますが、そこに抗っていくのが僕らの職業です。よりよい生活、より豊かな生活を提案していける、社会にダイレクトに貢献しやすい仕事だと思います。皆さんはかろうじて古いもの(アナログ)と新しいもの(デジタル)の両方を経験できる貴重な時代を生きているので、幅広く経験して学んでもらいたいと思います。


// WORKS //
■大吉さんの作品
和菓子屋のパッケージデザイン

C_和菓子_02_大吉紗央里.jpgD_和菓子_03_大吉紗央里.jpgE_和菓子_ロゴ_大吉紗央里.jpg大福専門店という設定で、店名の小吉大福(こきちだいふく)には、「小さな和菓子でにっこり幸せになってほしい」という想いが込められている。お祝い事の贈り物や、訪日外国人客の東京土産を想定し、縁起の良い紅白のパッケージを採用。紅と白の箱は、色だけでなく手触りも異なる紙を使用している。ロゴは、大福のもちもちした質感を手書きのラインで表現し、弧を描いたローマ字はにっこり笑った口元をイメージ。

■前田さんの作品
老舗羊羹屋の期間限定パッケージデザイン

「自分の名字に因んだもので和菓子のパッケージを作る」という課題で制作した作品。どっしりしたロゴで日本らしい雰囲気を残しつつ、パッケージでは爽やかな、初夏の空気を感じられるような軽やかさを目指した。羊羹自体がとても綺麗な色のため、箱を開けた瞬間にその美しさが感じられるように、パッケージには半透明の紙を使用。羊羹にかかせない寒天の原料のサーモンピンク色を、メイン色に採用した。

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桑沢デザイン研究所

1954年に設立された、日本初のデザイン学校。ドイツのバウハウスをモデルとして発足して以来、そのカリキュラムは常に時代を反映してきた。夜間部は、2年間という短い期間でありながら、専門課程にふさわしい「教育水準の高さ」を維持した教育内容で、働きながら学びたいというニーズにも応える。夜間部授業見学や学校見学・オンライン個別相談会も随時開催している。

桑沢デザイン研究所 夜間部
◎専攻デザイン科<夜間部2年制>
 ビジュアルデザイン専攻/プロダクトデザイン専攻/
 スペースデザイン専攻

DSCF6100 (1).jpg所在地
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お問い合わせ
TEL 03-3463-2432(進路支援課)
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