凝縮したプログラムと実践的な課題からデザインを学ぶ
桑沢デザイン研究所 夜間部

本業を持ちながら第2の活動をする人、キャリアチェンジや独立を目指す人なども通う桑沢デザイン研究所の夜間部は、昼間部での総合的な学びを凝縮させた専門性の高いカリキュラムとなっている。働きながら学んでいる在校生に、桑沢の特徴を聞いた。

           

凝縮したプログラムと実践的な課題からデザインを学ぶ
桑沢デザイン研究所 夜間部

構成=野口真弥 Noguchi Maya 文=中山薫 Nakayama Kaoru 写真=梅田健太 Umeda Kenta

本業を持ちながら第2の活動をする人、キャリアチェンジや独立を目指す人なども通う桑沢デザイン研究所の夜間部は、昼間部での総合的な学びを凝縮させた専門性の高いカリキュラムとなっている。働きながら学んでいる在校生に、桑沢の特徴を聞いた。

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【PROFILE】
山本 悠歩さん(写真右)
ビジュアルデザイン専攻 2年
神戸大学で芸術学を学んだ後、日用雑貨ブランドの会社に就職。総合職として販売に従事するなかで、パッケージ・デザインやブランディングに興味を持ち、転職を考えて退職。美大受験予備校でデッサンを学んだ後、桑沢デザイン研究所に入学。昼間は出版社のアルバイトで子ども向け電子書籍の運用を担当。

norimori さん(ペンネーム。写真左)
ビジュアルデザイン専攻 2年
舞台を中心とした俳優業を10年近く続け、新型コロナウイルスによる自粛期間中に転職を決意。本が好きでエディトリアル・デザイナーを目指して桑沢デザイン研究所に入学。昼間はデザイナーとして、舞台関係の公演チラシやパンフレットなど印刷物のデザインを行っている。

- I N T E R V I E W -

--桑沢の夜間部に入学する前は何をしていましたか?

norimori高校卒業後、10年ほど舞台を中心に俳優業をやっていました。新型コロナウイルスの影響で自粛生活になったとき、将来について考える時間が増えたんです。私は本が好きなので、本の装丁やエディトリアル・デザインの仕事に就きたいと思い、桑沢を受験しました。たまたま親戚に桑沢の昼間部を卒業してデザイン事務所に就職した人がいて、学校のことを詳しく聞けたこともあって決めました。

山本:僕は大学では音楽、絵画、建築などの芸術が、社会でどう生かせるかを勉強していました。その延長で日用雑貨ブランドの会社に就職して2年間働いているうちに、商品のデザインやブランディングに興味が湧いてきたんです。
そこで退職して美大受験予備校に通い始め、デッサンを学んでいるときに、講師の方から桑沢のことを教えていただいたのがきっかけでした。

--実際に通ってみて良かったことを教えてください。

norimori:図書室の蔵書が充実していることです。本が好きなので、図書室も桑沢を選んだ理由の一つです。書店では手に入らないような国内外の専門書が好きなだけ読めるなんて、すごいことです! 学校に早く着いたときや、なかなかアイデアが湧いてこないときなどに行って、いろいろな本を開いて引き出しを増やすようにしています。

山本:僕も図書室はよく使っています。学校がアクセスのいい場所にあることも助かっていて、都内に住んでいなくても通いやすいです。しかも、近くにファッションブランドや雑貨のお店がたくさんあるので、パッケージの授業など、課題を制作するうえでもすごく参考になります。

norimori:確かにおしゃれなお店がたくさんあって、そういう街を歩いて感覚を磨くことも大事だなと改めて思います。
それと、入学前は知らなかったんですが、じつは国内外の著名なデザイナーや専門家が登壇する特別講義が割とあって、すごく貴重な経験ができています。パリを拠点に世界的に活躍している「M/M(Paris)」とか、普通ならチケットを取って話を聞きにいくような人が講師で来てくださるので。

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--クラスの雰囲気はどんな感じですか?

norimori:私のクラスは10代から30代まで幅広くいて、社会人経験者が4割くらい。働きながら通学している人も結構います。みんな受験に合格して入ってきているので、モチベーションが高いです。
たとえば「箱をきれいに作る」という課題で、箱を作るだけでなく色柄までデザインした作品を制作してくる人がいたりするので、「やられた!」と思って、みんな次の課題への取り組み方が変わるんです。「求められている以上のものを作りたい」という意欲が湧いてきます。2年になってからは、さらにその空気が濃くなっているように感じます。

山本:僕のクラスも10代から30代まで幅広いです。社会人経験者が3割くらいで、20代半ばくらいがやや多め。個性が立っている人が多いかもしれません。課題に合った表現を考えるというよりも、もともと自分がやりたい表現があって、それをこの課題でどう出すかという視点で取り組んでいたり。
だから僕が思いつかない色合いで表現をしてたりするんですよね。そういう人とお互いに「どういう考えでそうなったのか」など意見交換をするのも勉強になります。桑沢の夜間部は専攻別に受験があるせいか、志を持って入ってきた人が多くて刺激し合えるのがいいですね。

--デザインを学んでみて実感することは?

norimori:担任の先生によって授業や課題の内容に若干の違いはあるにしても基本は同じで、1年目はデザインの基礎や考え方を学び、2年目はパッケージ・デザインや店舗のブランディングなど、現場の仕事に近い授業が多くなります。2年になってから1年で学んだ知識が生きてくるので、基礎の重要さを実感しています。

山本:1年次で学んだ製図やデッサンなどの基礎的な知識を2年次の商業デザインの課題で使えるので、いきなり商業デザインを学ぶよりも身になったと思います。

norimori:私は舞台関係の知人から頼まれてチラシやパンフレット、名刺などのデザインをしているんですが、勉強する前は「何となくしっくりこない」ということがあって。基本を学んでみたら、腑に落ちることがたくさんありました。
雑誌のレイアウトなどを見て、「こういう意図があって、こういう配置になっているんだ!」とわかるようになり、改めてデザインって面白いなと思うようになりました。

山本:きちんと学ぶ前、デザインは感覚の世界のものだと思っていました。でも美しい構図や配色には基本的なルールやセオリーがあるということを知って、センスは知識の後からついてくるものなんだとわかりました。こういう表現にはこういう色や形を使えばいいんだと引き出しが増えていくので、街を歩くときも広告などを見て、何をどうビジュアルで見せているか、意識するようにしています。

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--桑沢で学ぶ面白さと、今後の展望を聞かせてください。

山本:僕はもともとペーパークラフトが趣味で、紙を切ったり貼ったりすることが好きなので、パッケージの課題が楽しいです。実際にやってみて、自分が好きなことは得意分野でもあるんだと改めて感じています。
広告のほうはアイデアがなかなか出てこないことがあるので、もっと引き出しを増やしていきたいです。

norimori:私はまだまだトライ・アンド・エラーで、パッケージや書籍のように紙の厚みがデザインに影響してくるものは、手を動かしながら学んでいます。図面はきちんとできているのに、作ってみたら厚さが2㎜分足りない!とか(笑)。実際に作ってみて厚みや見え方などを確かめるというように、手作業から学ぶことはとても多いです。

山本:僕は得意なパッケージ・デザインを仕事でもやりたいと思っています。ただ、できあがったパッケージをどう見せるか、宣伝するかなど、トータルなブランディングを考えることも必要なので、他の分野にも興味が湧いてきました。桑沢では分野を跨いだ合同の講義があったり、他分野の学生と触れ合う機会などもあるので、視野が広がったと思います。

norimori:印刷物のデザインはパソコンでできるイメージがありますが、印刷技術や紙の知識も必要で。印刷会社の紙見本を1枚1枚触ってみると、厚みや感触がちょっとずつ違うんです。使う紙によって印象が全く変わることを知ったので、最近は伝えたい内容に合わせて紙を選ぶようになりました。
卒業後はデザイン関係の会社に就職して、ゆくゆくは小さい子どもにデザインの考え方を教えられたら楽しいだろうと思います。

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- W O R K S -


山本さんの作品
「和菓子処 山源堂」パッケージ・デザイン

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和菓子屋のブランディングとして制作したパッケージ。山間の温泉街にあるような老舗というコンセプトで、店舗のネーミングやロゴ・マークも含めてデザインの方向性を考えた。歴史を感じさせる風格と、現代の観光客にも受け入れられるようなモダンさを兼ね合わせるため、外箱はモノトーンに箔押しのロゴを入れるシックなイメージに統一した。一方で箱を開くと、中には鮮やかな色合いと、水墨画のような風景イラストが広がり、お土産として持ち帰った先でも、その土地の世界観が共有できるように表現した。(撮影:山本)

norimoriさんの作品
「コーヒーショップ HONT COFFEE」パッケージ・デザイン

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「書物のなかに海がある 心はいつも航海をゆるされる」(出典:寺山修司『寺山修司少女詩集 』)という言葉をコンセプトに、冒険の海に出るお供として、本とコーヒーの良い関係を提案するショップを想定して制作。ショッパーは本を引き抜く動作と同じになるように横から取り出す形にした。(撮影:norimori)

桑沢デザイン研究所 夜間部

1954年に設立された、日本初のデザイン学校。ドイツのバウハウスをモデルとして発足して以来、そのカリキュラムは常に時代を反映してきた。夜間部は、2年間という短い期間でありながら、専門課程にふさわしい「教育水準の高さ」を維持した教育内容で、働きながら学びたいというニーズにも応える。学校見学・オンライン個別相談会も随時開催している。

◎専攻デザイン科<夜間部2年制>
 ビジュアルデザイン専攻/プロダクトデザイン専攻
 スペースデザイン専攻/ファッションデザイン専攻

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所在地
〒150-0041 東京都渋谷区神南1-4-17
お問い合わせ
TEL 03-3463-2432(進路支援課)
学校ホームページ
URL https://www.kds.ac.jp/




2023.07.14

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