特集compass 佐藤可士和

           

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SATO KASHIWA's compass
"「良いデザイン」をつくることは大前提。より大きな視野でデザインの力を発揮させていくことで、ブランディングを成功させることができる。"

ぼくの考える「ブランディング」とは、企業や商品の本質的価値を世間に向けて正しくコミュニケーションすることで、社会において目標とするポジションを獲得することです。普段請け負っている仕事の多くは企業のリブランディングです。どんな企業でも、長く続いて規模が大きくなるにつれて元々の長所=本質的価値が消費者・社内の双方から見えづらくなるところがあります。だから改めて企業の長所を見つけ出し、消費者・社内の双方に向けて価値の再認識をはかるように心がけています。

企業のリブランディングは「とにかく会社を良くしてほしい」といった風に漠然と依頼されることも少なくありません。そこで何よりもリサーチ、ヒアリングに時間をかけることが大切になります。膨大な情報を収集・整理し、強みを探し、どこを変えれば最も効率的に効果を生み出すのかを見極めます。そこまで至ればロードマップができるので、そこからはクライアントと一緒にアイデアを深めていく作業へと移ります。マインドとしては、クライアント企業の一員になったような感覚ですね。

具体例を出してお話ししますと、たとえばセブン-イレブンのリブランディングを担当したときには、同社の本質的価値は日常に根ざした「流通」にあると考えました。しかし、扱う商品の種類がとても豊富なため、パッケージやロゴの扱われ方もバラバラになってしまい、消費者に自社ブランド商品の品質を伝えることができなくなっていました。そこでまずはロゴをリニューアルし、統一感を高め、パッケージのカラートーンを揃えることで、ブランドイメージをデザインの力でまとめていきました。

一般的にブランディングでは短所をカバーすることに重点が置かれがちですが、ぼくはそうは考えていません。どんな企業にも短所はあるもの。それを見えなくするのではなく、むしろひとつの長所をピカピカに磨きあげて突出させることが必要だと考えています。社会で注目を集めるとはそういうことで、そのためにはとにかくコンセプトが斬新である必要があるのです。

またデザイナーに関して言えば、多くのデザイナーはいわゆる「デザイン」にしか興味がないところに弱点があると思っています。デザインというのは社会やビジネスの中ではほんの一部のプロセスに過ぎません。でも、たとえ一部でも正しく使うことで大きなパワーを発揮することができる。そう認識するべきです。デザイナーが仕事をする上では「良いデザイン」をつくることは大前提で、その上で社会やビジネスに興味をもち、より大きな視野でデザインの力を発揮させていくことでブランディングを成功させることができるのです。

(compassは、過去のデザインノート、イラストノートのインタビュー記事からクリエイターの人となりが表れている記事を抜粋・編集し、クリエイターの指針を紐解いていく特集です。)

  
佐藤可士和

佐藤可士和

1965年東京生。クリエイティブディレクター。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。株式会社博報堂を経て2000年独立。同年「SAMURAI」設立。ブランド戦略のトータルプロデューサーとして、コンセプトの構築からコミュニケーション計画の設計、ビジュアル開発まで、強力なクリエイティビティによる一気通貫した仕事は、多方面より高い評価を得ている。グローバル社会に新しい視点を提示する、日本を代表するクリエイター。主な仕事に国立新美術館、東京都交響楽団のシンボルマークデザイン、ユニクロ、セブン-イレブン、楽天グループ、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、ふじようちえん、カップヌードルミュージアムのトータルプロデュースなど。近年は武田グローバル本社、日清食品関西工場など大規模な建築プロジェクトにも従事。文化庁・文化交流使(2016年度)として、日本の優れた商品、文化、技術、コンテンツなどを海外に広く発信することにも注力している。著書に『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)、『聞き上手話し上手』(集英社)、『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)ほか多数。毎日デザイン賞、東京ADC賞グランプリ、東京TDC賞金賞、朝日広告賞グランプリ、亀倉雄策賞、日本パッケージ大賞金賞ほか多数受賞。

関連サイト
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アイデア
イラストノート