クリエイティブ・ディレクター山阪佳彦
ヒトとモノとの関係性をデザインする
―「創らない創造性」のススメ―

           

クリエイティブ・ディレクター山阪佳彦
ヒトとモノとの関係性をデザインする
―「創らない創造性」のススメ―

インタビュー・文:Miwa YOKOYAMA

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[Profile]
山阪佳彦(やまさか・よしひこ)
1961年大阪生まれ。
クリエイティブ・ディレクター。

広告・プロモーションなどの商業デザイン、企業・自治体・地域のブランディング、課題解決のためのデザインを行う。「課題を探る」「体験をデザインする」「ニュースをつくる」をテーマに、コミュニケーションデザイン活動全般の企画やクリエティブを手掛ける。

広告では、雑誌広告電通賞をはじめとする準朝日広告賞、日経デザイン賞などを、プロダクトではTopawards Asia、one showメリットアワード、キッズデザイン賞などを受賞したほか、内閣府をはじめとした行政での研修講師も行う。東京コピーライターズクラブ会員。 MAQ inc. 取締役副社長。グッドデザイン賞審査員。

0→1のデザインと1→10のデザイン、どっちが得意ですか?っていう話がありますよね。僕はどっちも得意ではないんですね。この数字って価値の大きさですが、そういう尺度でものをつくってきた実感がありません。0→1で、新しい価値を創る行為は偉大だし、それができる人を尊敬します。一方、1→10みたいな大ジャンプをこなせる人に、いつも拍手を送っています。ビジネスの現場では、デザインにはこういう離れ技が求められていますよね。でも今の時代、これらとはまったく違うモノサシも使える。ある意味、いろいろ試せる時代だと思います。

その中で私がこだわっているのが、「創りすぎない」という試み。もっと言うと「創らない創造性」。「それ、デザイン?」「どこがクリエイティブ?」みたいな部分に、魅力を感じています。可能性とか新しい価値を生みだす行為ではなく、習慣をつくるような行為、そこにあった価値を引き出す、生かす、組み合わせる、別のものを持ち込まない、飾りすぎない、といったこと。

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私は、若い頃から、よくできたたとえ話や見立ての文化なんかが好きなのですが、それはその行為というよりもむしろ、人の思考性の方に興味があるのだと思います。罠をつくって鳥を捕まえる行為より、罠にかかる鳥の方に興味があるというか...。あっ、このたとえ話は、さっぱりダメですね。笑

長らく、広告やプロモーションなど商業デザインの仕事をしてきました。商業デザインの目的は、モノやコトを買ってくれる人や機会を増やすこと。言い換えれば、人の心理変容や行動変容を起こすデザインです。自身のそういうキャリアが、人間の行動や性に目を向けろと言っているのかも知れません。

地域のブランディングでは地域住民が、行政のデザインでは市民が真ん中にいる。しかし、人は気まぐれだし、興味や関心のないものから目をそらしたり、逃げたりしますよね。凝り固まった信念やバイアスも持っていたりする。そういうものをほぐしてからじゃないと、心って開かない。「はい、今笑ったよね」みたいなコミュニケーション。もの凄く単純だけど、そこが重要だと思っています。「世の中の当たり前」を「デザインの力」で変えていく取り組み、そういうことができたら良いなあと思いながら、仕事をしています。

―「GARBAGE BAG ART WORK」(2006年〜)

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ゴミ置き場をアートにするプロジェクト(2006年〜)

ゴミを持ち帰りたくなるゴミ袋・Love it!くんマナーバッグ(2007年〜).jpg
ゴミを持ち帰りたくなるゴミ袋・Love it!くんマナーバッグ(2007年〜)

ゴミ置き場をアートにするプロジェクトは、住宅街のゴミステーションを舞台に日々繰り広げられるアートインスタレーション的な試みです。アイデアのきっかけは、自宅近所の美しいゴミ置き場。清潔という意味ではなく、整然と並べられたゴミ袋の佇まいが本当にスタイリッシュで、思わず写真を撮ったのを覚えています。例えるなら、それはまるで石垣のようなオブジェ、まさに芸術品でした。

この作品の作者は、このゴミ置き場の目の前にあるマンションの管理人さん。歩道が狭いのでゴミのせいで、通り辛くなると困るだろうということで、ガードレールに沿って石垣を積むように並べたのだそうです。ここからの着想で、つくったのが、綺麗に積み上げたくなるというコンセプトのゴミ袋です。誰か一人の行為ではなく、ゴミを出す近所の人たち全員が、綺麗に並べたい、積み上げたいと思える。見た目にはゴミ袋のデザインプロジェクトですが、本質は違います。ゴミ出しという行為やその時の気分をデザインする。この活動はその後、廃棄ゴミからゴミ袋をつくるプロジェクトや子どもの環境教育、ゴミ拾いをしている団体支援などの活動に発展していきますが、人とゴミの関係をデザインするプロジェクトであることに変わりはありません。ゴミ置き場が綺麗になったり、ゴミ拾いに多くの人が参加してくれるのはシンプルに良いことかと。そして、それまでは何も考えずに朝にゴミ出しをしていた人や、なんとなく地域清掃に参加していた人が、自分たちが出すゴミのことに思いを馳せ「ゴミを出さない生活」や「ゴミになるものは使わない日常」を考えるきっかけになればと思います。

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SESAME STREET ECO KIDSPROJECT with リリー・フランキー(2008〜2009年)

―DV(ドメスティック・バイオレンス)予防啓発プロジェクト(2009年〜)

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一線を引こう!DV or Not?(2012年〜)

2008年、千代田区の男女共同参画の部署から「DV予防啓発」の相談がありました。この問題に無関心だった私は、直感的にまさに自分のような人がターゲットではないかと思いました。DVや児童虐待がこれほどニュースになっているのに、自分とはまったく別の世界の話だと思っていましたから。DVって、殴ったり蹴ったり突き飛ばしたり、身体的な暴力のことかと思っていましたが、精神的な抑圧や支配も含め意外にあれもこれもDVなんだと気付かされます。

DV or not?というシートは、DVに対するそれぞれの認識の違いを見せ合い、話し合いを促すツールです。DVについて、夫婦間、恋人間、パートナー間で話し合ってくださいと投げかけても、話が進むことはあまりありませんが、このシートがあると、皆さん積極的に議論を始めます。DVは捉え方が人それぞれ。バイオレンスという言葉の印象から、かなりハードな暴力を連想しがちですし、言葉の定義も受け取り方によって違うので、どこからがDVかという問いには、100人100様の境界線があるように思えます。ワークショップや研修のアイスブレイクで活用すると、夫婦間でなくてもとても議論が白熱します。みんな線を引いている場所が違う。だからこそ、話し合うきっかけが生まれる。これをきっかけに、「境界線」というものに興味を持つようになりました。自治体のデザイン研修でもも、市役所職員にとって「仕事か、仕事でないか」の境界について話し合ってもらう時間をワークショップに組み入れたりしています。

―神戸市水道局「水道水を意識してもらうおう」プロジェクト(2019年)

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神戸市水道水グラス(2019年〜)

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神戸市水道水グラス(2019年〜)

「水道水を飲んでもらうにはどうしたらいいか?」という話がよくあります。神戸市水道局でもこのことを課題にしていました。街に給水ポイントを設置したり、マイボトルの持ち歩きを推奨したり、行動を促しサポートする地道な活動はとても大事だと思います。でも、頭ごなしに水道水を飲もうと言われても、そういう習慣がない人には、重要性は理解できるけど・・・行動を変えてもらうところまでは、難しいと思うのです。でも、飲みません、飲んでいませんと言っている人も、実はあなた飲んでいますよ!というアプローチなら、心が少し開くのではと。まちの喫茶店や飲食店で出てくるお冷は、水道水ですよと。無意識に飲んでいた水道水を、意識して飲んでもらうためにつくったのが、神戸市水道局のロゴ入りをグラス。ビール会社のロゴ入りグラスのオマージュです。

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社会課題の解決という客観的な言葉ではなく、多くの人が感じている不安や引っ掛かり、違和感を取り除く、そういう行為をみんながデザインと呼ぶ時代になればと思います。私はかっこいいものやおしゃれなものを作れません。多くのデザイナーの中にある美意識の、いちばん遠いところでデザインをしているんだろうなと思います。だから創らなくてもストレスにはならない。的確な問いかけさえできれば、答えはみんなが出してくれる。こういう感覚にこそ、デザインの伸び代が隠されているんじゃないかと思っています。


2022.07.05

  
山阪佳彦

山阪佳彦

1961年大阪生まれ。 クリエイティブ・ディレクター。 広告・プロモーションなどの商業デザイン、企業・自治体・地域のブランディング、課題解決のためのデザインを行う。「課題を探る」「体験をデザインする」「ニュースをつくる」をテーマに、コミュニケーションデザイン活動全般の企画やクリエティブを手掛ける。 広告では、広告電通賞、準朝日広告賞、読売広告大賞、日本雑誌広告賞、TCC新人賞など。プロダクトではTopawards Asia、one showメリットアワード、キッズデザイン賞などを受賞。内閣府をはじめ、行政での研修講師も行う。東京コピーライターズクラブ会員。 MAQ inc. 取締役副社長。グッドデザイン賞審査員。

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