<この記事はデザインノートNo.92 / イラストノートNo.53「夏の美術学校特集2020」からの抜粋です>
1935年の設立以来、常に日本の美術とデザインの幅広い分野をリードしてきた多摩美術大学。社会に新たな価値を生み出すクリエイターを養成するため、同大学が掲げているのが、4つの教育テーマである。
第一のテーマは「世界で活躍する人材の育成」。〝世界水準を自分の水準に〟をキャッチコピーに、国境を超えたワールドワイドな教育を展開。たとえば、アメリカの名門美術大学アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン(ACCD)との国際協働教育プロジェクト『パシフィック・リム』もその一つだ。両校の学生がペアを組み、3ヵ月間をともに過ごしながら、環境や文化に関する課題に取り組み、デザイン提案を行う。このプロジェクトから生まれた作品が全米学生コンペで受賞するなどの実績を持つ。
第二のテーマ「可能性を拡張する先進性」では、最先端のテクノロジーであるAI(人工知能)を使った社会課題の解決やビッグデータの可視化、次世代インターネットテレビにおける新しいアイデアなどを企業へ提案。実際に企業が扱っているデータや条件を使ってプログラミング等を学び、情報と表現を結びつける力を養っている。
美術学部の各学科が展開する高度な専門教育に共通する4つの教育テーマ。三番目に挙げられるのは「産学官連携で培われる課題発見力」である。社会における多様な課題解決や、市場における新たな価値の発見にアートやデザインを役立てる人材の養成は、常に多摩美術大学が行ってきたものだ。企業だけでなく学学連携も盛んで、昭和大学と行なっている医療現場との連携授業をはじめ、早稲田大と多摩美の学生がグループを組んで起業家を育成する授業なども行われている。2020年からは全学科生が早稲田大学の提供する授業を履修できる単位互換がスタート。こうした連携がさまざまな分野における実践力を高めている。
そして、第四のテーマが「専門性を生かしたキャリア支援」だ。人気企業ランキング100(東洋経済調べ)の約半数に就職実績がある本学では、年間200社近い企業が学内で説明会を開いているほか、学生一人ひとりにポートフォリオ制作等の指導を行うなど、キャリアセンタースタッフが手厚くサポートしている。
このような社会と地続きの実践的な教育や支援を通じ、困難な社会を切り拓くクリエイティブ人材を育てている。