イラストを動かし、漫画動画にするという新たな表現の可能性、デジタルソフトへの対応をリアルに学ぶ、プロとして生きるクリエイター教育。

―大阪総合デザイン専門学校と誠文堂新光社の産学一体プロジェクト―

イラストを動かし、漫画動画にするという新たな表現の可能性、デジタルソフトへの対応をリアルに学ぶ、プロとして生きるクリエイター教育。
―大阪総合デザイン専門学校と誠文堂新光社の産学一体プロジェクト―

取材・文:横山美和

大阪総合デザイン専門学校の選択科目「デジタルアニメーション」にて、書籍『猫のしぐさ解読手帖』のコンテンツを漫画動画にするという授業を行いました(2021年9月~2023年1月)。この動画は、誠文堂新光社のWEBサイトやSNSで配信され同書のプロモーション用として使用されます。
この授業は同書の担当編集者より同科目の担当、小山賢一先生に依頼をし、生徒たちのモチベーションとスキルを上げる授業となるはず、と好感され実施されました。同書は猫のしぐさを見て何を思っているか、それは病気か、正常か、をかわいいイラストと動物行動学者と獣医師のコメントでシンプルにまとめた書籍です。
受講者たちは本書でキャラクター化されている猫をモチーフとして本書の各項目を漫画動画に仕上げました。シナリオ、コンテから始まり、声優も生徒自身が行い、アニメーションの全工程を経て完成させるという実践的な授業となりました。
ここでは、小山先生と漫画動画制作に取り組んだ生徒たちのお話を伺い、この授業の感想や日頃のクリエイティブへの向き合い方について、そして、大阪総合デザイン専門学校が訴求するエンターテインメント制作の教育の意義と価値を探ってみました。

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『猫のしぐさ解読手帖』(誠文堂新光社2022年7月刊)

◎小山賢一先生 インタビュー

今回の作品制作は、「デジタルアニメーション」の授業で行いました。これは選択科目なのですが、1年生はどのコースに入っても履修できる授業です。ですので、今回は1年生を中心に、コミックアート、漫画、そして研究科の学生の14名が参加しました。この授業は週1回3時間の授業で計15回行われていますので、今回の作品制作は15回すべての授業を費やし、授業では、Adobe Illustratorから Photoshop、CLIP STUDIOといったデジタルソフトの使い方を中心に、動画編集ソフトまでを習得しながら、依頼された作品の制作を進めていきました。学生にまず指導したのは、今回の動画はいわゆる本格的なアニメーションではなく、どちらかというと、あまり動かないアニメ、漫画とアニメの間を目指すといった漫画動画というスタイルです。そして、テキストから絵コンテから、声入れまでを全部一人で行うということでした。もちろん、依頼主である出版社がありますから、「普通の人がみて面白いかどうか?」を必ず考えて制作しなさいと話をしました。これには理由があって、こうした動画を作る上で大切な、物語があって人に伝えるという表現力を、ここで感覚的にでも養いたいと考えたからです。とういのも、今のアニメ業界の現況を見ると、技術革新がもたらす産業の変化は著しく、テレビでも映画でも実写でも、そしてネット上でもアニメーションをつかって構築するといったことは普通に見られるようになりました。従って、仕事の幅は昔に比べて拡がってきています。しかし、逆に捉えると、これだけメディアが増えたわけですから、多くの目にさらされれば、ブームというのもあるし、単なる消費財で終わってしまうのではないかという懸念もあります。私はその懸念の上で、これからの未来を担う若者たちには強い意思をもって社会で活躍してほしいと思っているので、本校では積極的に自分の独立心を育むような若者を育てたいと考えて指導しています。

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◎豊川愛里さん(兵庫県出身/漫画コース1年生)インタビュー

絵を描くのが好きなので、最初はアニメーションの世界に行きたいと思っていました。でも、高校生の頃、ある漫画に出会い、もしかしたら、私がやりたいのは漫画なのかもしれないと、進路を変更しました。この学校に来て思うことは、まず画力が上がったことです。好きなキャラクターがいて、小学生の頃からこれまでずっと何回も描いているのですが、最近、明らかに上手に描けるようになっていることに気がつきました。また、学校に入ってから、私は本格的に漫画を学んでいるのですが、ストーリーから考えて16ページの漫画を描く課題は、いざやってみたら難しかったです。ただ見ている漫画と自分で描く漫画というのはやはり違います。描いた作品を先生に見せると、先生はやはりプロなので、なるほど、と思うことを都度、指摘してくれます。また、漫画コースとはいえ、アニメーションの使い方などの授業も別に用意されています。漫画とは一味もふた味もまた違った世界でこの世界も難しいこともありますが面白いです。将来はプロの漫画家になりたいと思っています。そのためにももっと画力を上げて、スキルだけでなく、画面の見せ方や小回りのきかせ方なども学んでいきたいと思っています。
私はこれまで猫の絵を描いたことがなく、この授業で、初めて猫の絵を描きました。原作のイメージを忠実に再現できたらと思って取り組みました。

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◎板倉千紘さん(大阪府出身/コミックアートコース1年生)インタビュー

私は昔から絵を描くことが好きでした。特に動画に興味がありました。学校のオープンキャンパスに行ってみると、デジタルソフトの使い方を先生が丁寧に教えてくださり、また、話をいろいろ聞くと、アニメ分野の授業も受けることができると聞いたので、この学校に入ることを決めました。普段は鉛筆のほか、スマホに指で描いたり、タブレットを使ったりして、時間さえあれば、通学の電車の中やカフェなどでも好きな絵を自由に描いたりしています。一方、学校ではクロッキーからはじまり、デッサンといった基礎画力を身につける授業から、デジタル技術を駆使して行う授業まであります。学校では自分の引き出しを常に増やしつつも、毎日が刺激的です。特に課題発表会では、同級生の描く絵に対してこんな世界観があるのか、こんな描き方があるのか、と驚くことも多く、自分も頑張らなければならないなと思うことが多いです。将来的にはイラストレーターやアニメーターなどの仕事で会社に勤められたらいいなと思っています。今回の動画制作では、猫の行動にはどんな意味があるのかを原作を読んでリアルに再現しました。1枚だけで表現する、1枚に全力をかけて、シンプルに仕上げてみました。

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◎フォン チュン ヘイさん(香港出身/コミックアートコース1年生)インタビュー

私は日本の文化である漫画やアニメ、ゲームにもともと興味がありました。そして、絵を描くのも好きでした。以前に、日本のコミケ(コミックマーケット)に参加したことがあって、その感動が忘れられずに、今に至っています。香港にはこのような世界最大規模の同人誌即売会というものはないので、日本のコミケ文化は来日した今も訪れては感動でいっぱいです。香港にいた時は社会人として仕事をしていました。でも、心の中でコミケがある日本に行きたい、さらに、絵の勉強もしてみたい、できれば日本で好きな絵を勉強しながらコミケに参加して、絵師として就職できたら、と思い、インターネットで学校を調べました。調べてみると、この学校は香港からの留学生も受け入れていて、同郷の卒業生もいましたし、オープンキャンパスがあることもわかりました。そこで、家族旅行も兼ねて、ここ日本・大阪を訪れ、まずはオープンキャンパスに参加してみることにしました。オープンキャンパスに参加できたことは大きかったですね。ここで学びたいと意思が固まりました。しかし、コロナ禍で入学が決まっていたものの、なかなか来日することができませんでした。ようやく、今年、私は念願叶って、コミックアートコースに入学することができました。待っていたかいがありました。数ある授業の中で私が一番刺激を受けたのは「デッサン」の授業です。私は「デッサン」をこれまでに描いたことがなかったので、驚きの連続でした。そこでは色彩と形態を駆使して身につける基礎画力がいかに大切なことかを知らされました。

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デジタルアニメーションの授業での作業風景

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- Works -
動画作品紹介

2022年前期 生徒の作品

2022年後期 生徒の作品


2D作品紹介

板倉千紘さんの作品(2Dイラストレーション)

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豊川愛里さんの作品(漫画)

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フォンチュンヘイさんの作品(2Dイラストレーション)

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↓ 小山先生の活動の一環として、同様の課題を大阪総合デザイン専門学校と提携している
中国の美術学校の陝西職業技術学院でも行った。

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デザインノート
アイデア
イラストノート