誰でも自由にアートを発信できる場所 "デザインフェスタ"

国内外1万⼈以上のアーティストが集結

           

誰でも自由にアートを発信できる場所 "デザインフェスタ"
国内外1万⼈以上のアーティストが集結


オリジナルであれば誰でも無審査で参加できるアートイベント、デザインフェスタ。プロ・アマチュア問わず、「⾃由に表現できる場」として1994年から始まった。

春・秋の年2回開催され、2022年5⽉に55回⽬を迎える。参加経験のある2⼈のクリエイターに、会場の様⼦や展⽰・集客に関して⼯夫していることなどを聞いた。

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[PROFILE]

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⻄浦康太さん
http://kota-nishiura.weebly.com/
https://twitter.com/kota_nishiura

学⽣時代に⽇本画を学ぶ。いったん就職した後、創作活動を再開。⼀貫して動物を描き続けている。緻密な技法を得意とし、岩絵の具、アクリル絵の具、ペン、粘⼟など、さまざまな画材による表現を模索した後、8年ほど前からオーブン粘⼟を使った作品づくりに取り組んでいる。デザフェスには2018年からほぼ毎回参加。

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鈴⽊友実さん
https://plantain-tiger-kc35.squarespace.com/
https://www.instagram.com/tomochanpaintings/

⼦どもの頃から絵本好き。⾃宅で絵画教室を開いていた祖⺟の影響を受けて油絵を描くようになり、2021年に⼤学を卒業後、⺟親が住んでいるハワイに1カ⽉半ほど滞在し、ウォールペイントのグループに参加。帰国後、7⽉頃から本格的に創作活動を開始。現在はデザインフェスタギャラリーで働きながら絵画教室に通い、アーティストとして⽣きる道を模索中。

表現を模索し続けて到達した粘⼟アート

--⻄浦さんは粘⼟を使って、とても細かい表現をされていますね。

西浦:⾃分が表現したいものに合う画材を模索しているときに、たまたま⾊のついた紙粘⼟を細くして並べていって押し潰したら⾯⽩いタッチになり、その感覚が気に⼊って現在の⼿法になりました。ただ、紙粘⼟はどんどん乾いて固まっていってしまうので、オーブン粘⼟を使っています。この粘⼟はオーブンで焼くまで固まらないんです。

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--アクセサリーや陶器をつくるのに使うものですね。

西浦:はい、画材ではありません。⾃分で下絵を描いて、ひたすら粘⼟を置いていくという⼿法です。5⾊ほど⽤意して、細い⽷のようにして明暗をつけながら描いていきます。1本ずつ置いていくというというところは刺繍に似ていると思います。⼤きめの作品で60時間ほどかかります。

--これだけ緻密だと、かなり集中⼒がいりますね。⿊1⾊の作品は抜けがあるので、後ろにカラーボード やライトを置くなど、いろいろな展⽰法がありそうです。切り絵のようにも⾒えますが、線を残していく切り絵とは逆のアプローチということになりますね。

西浦:切り絵は下絵に忠実に仕上げていくのですが、これは線を置いていくので、微調整しながらイメージを固めていくことができます。また、たくさんの⾊を使うよりも軽やかにつくれるので、最近はこうした表現にも取り組んでいます。

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⾼温で焼き上げた粘⼟をアクリル板に挟むことで耐久性を⾼めている。緻密に仕上げた作品の裏側は、少し違った表情に。どちらも楽しむことができる。「亡くなった⼦(ペット)の顔を作ってほしいと⾔われることもよくあります。⼤事に部屋に飾っていただけるのは、とてもうれしいです」

--動物のモチーフが多い理由は?

西浦:昔から⼈物や動物など、無機的でないモチーフを描くことが好きでした。猫を飼っていた頃、何を考えているんだろう?と猫の⽬を覗き込んで⾒つめ合うことがよくあって(笑)。

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特に⽬の表情にこだわっているという⻄浦さんの作品。緻密な⼿作業の様⼦は、ツイッターやデザフェス会場の動画で⾒ることができる

--確かに、⻄浦さんの作品は⽬に強さとやさしさがあるように感じます。⻁のように⾝近にいないものは 写真をモチーフにするんですか?

西浦:動物園へ⾏って、iPadで簡単なスケッチをしています。個⼈の⽅から亡くなった猫ちゃんなどの作品を頼まれたときは写真をお借りしています。

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国外の⾃由な空気に触発されて創作開始

--鈴⽊さんは創作活動を始めて間もないということですが。

鈴木:美術専門の学校で学んだことがないので、今は絵画教室に通いながら、いろいろな作品を⾒て、⾃分がいいなと感じたものから吸収するようにしています。祖⺟の影響もあって、絵は昔から好きでした。セザンヌのような印象派の絵画が好きです。 他にもアメコミ(マンガ)、『俺たちに明⽇はない』(60年代のアメリカ映画)とか、いろいろなものが好き で、特定のジャンルにとらわれないようにしています。⼦どもの頃から絵本が好きで、お話をつくることも 好きなので、2022年から新しい形態のマンガや映像にも挑戦しています。

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アメコミふうタッチのマンガ。⽇本語を縦書きでつけたものと、英語を横書きでつけたものが同時に読める。オリジナルのショートムービーとともに、新たな挑戦として2022年から始めたもの

--ハワイ滞在中にギャラリー巡りなどをして、⽇本との違いを実感したのでは?

鈴木:そうですね、向こうではプロとアマの境い⽬がはっきりしているわけではなくて、ギャラリーも開放されていると思います。私のようなアマチュアでも「誰か紹介してほしい」と⾔えば紹介してもらえて、作家さんのオフィスやアトリエに遊びにいけたり、ウォールペイントのグループに参加できたりしました。 ところが、帰国したら⽇本のギャラリーは敷居が⾼いというか、閉じられていると感じました。

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右の2点は絵画教室でモチーフを⾒ながら描いたもの。「基礎を学ぶために教室に通っています。⾃然と抽象画っぽくなってしまうのを認めてくださる先⽣で、⾃由に描かせてもらっています」

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鈴⽊さんが描いたハワイの⼼象⾵景。下地に塗った⾚をそのまま⽣かしたり、雲の⽩を削って下に塗った空の⾊を出すなど、油彩ならではの技法も駆使している

--そんな⽇本のなかでも、原宿には⾃由な空気がありますよね。

鈴木:そうなんです。原宿なら表現できる場所があると信じてやってきて、ふらっと⼊ったのがデザインフェスタギャラリーでした。そこでデザフェスのフライヤーを⾒つけて、⾃由に表現できると聞いて「助けてもらった!」と思いました。

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原宿駅・明治神宮前駅から徒歩で⾏けるデザインフェスタギャラリー。デザインフェスタのイベントは年2回開催だが、デザインフェスタギャラリーでは、年中個展やグループ展を開催することができる。コロナ前は海外からの出展者・来場者も多かった

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壁画アートが印象的なデザインフェスタギャラリーWEST館1階のカフェ。壁画アートは申込制で誰でも挑戦することができる

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カフェを出るとEAST館につながる通路が。通路にも壁画アートがある

初参加の印象は、熱気と多様性

--デザフェスは、オリジナルなら誰でも無審査で参加できるそうですね。初めて参加したときは、どんな 印象を受けましたか? ⻄浦さんはだいぶ前になりますが。

西浦:2008年に友⼈たちと⼀緒に出展したのが最初です。お客さんがたくさんいて、めちゃくちゃ盛り上が っていて、「こんなイベントが⽇本にあるんだ!」という驚きでいっぱいでした。海外からもたくさんの⼈が 来ていて、僕の作品を⾒て⾯⽩がってくれました。当時はまだいろいろな表現を試している時期だったの で、細かいことは覚えていませんが。

--鈴⽊さんは去年(2021年11⽉)初めて参加して、いかがでしたか?

鈴木:とにかく圧倒されました。出展する⼈も、来場する⼈も、みんな全然違うんです。お⾯をかぶって歩いている⼈がいたりして、まるで『千と千尋の神隠し』のオープニング・シーンに描かれている世界のよう に感じました。隣の⼈はグッズ販売が中⼼で、私は絵の展⽰とポストカードの販売をしました。

--多彩でにぎやか、 "フェス"ならではの熱気が充満していそうです。新型コロナウイルスの影響はありま したか?

西浦:感染が収まるまではそんなに⼈が来ないだろうと思っていましたが、意外とそうでもなくて、それなりに混んでいます。みんなそれだけ楽しみにしているんだと感じます。

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デザインフェスタ会場風景。年齢や国籍、ジャンルやスタイルを問わずに集まったアーティストによるイラスト、絵画、造形、ファッション、写真、映像、アクセサリー、⼈形など、多種多様な作品の展⽰販売のほか、ダンスやマジックなどのパフォーマンスも⾏われる

ギャラリーでは出会えない⼈たちから得る"気づき"

--出展して得られたことを教えてください。

西浦:僕は2018年からほぼ毎回参加していて、固定ファンというか、毎回のように⾒に来てくださる⽅もいてありがたいです。ここ数年はギャラリーのオーナーさんも来場するようになってきて、展⽰しませんかと声を掛けてもらったり、個⼈の⽅がオーダーしてくださったりして、活動の幅が広がっています。 独⾃の⼿法なので画材メーカーさんが⾯⽩がってくださり、実演をしてくれないかと⾔われたこともありま した。

鈴木:デザフェスは⾃由度が⾼いイベントなので、新しいものが⽣まれやすい場だと思います。 ただ、私は初参加だったこともあって、うまく集客できませんでした。ツイッターで⼈気のあるクリエイタ ーさんが隣に出展していて、そこにはたくさん⼈が来ているのに、私のところは全然来なくて。⼈に好かれそうな絵も描いていったのですが、それは⾒ても誰も良いと⾔ってくれなかったんです。それで、⾃分がやりたいことをやらないとダメなんだと気づくことができました。⾃分の表現スタイルを確⽴するうえでは参加してよかったと思います。

--個展とデザフェスとの違いは?

鈴木:個展は友達とか、作品を⾒たいと思って来る⼈がほとんどですが、デザフェスは不特定多数の⼈が来 るので、反応もいろいろです。ラッパーみたいな⼈が来て私の絵を気に⼊ってくれて、「ジャケットを描いて ほしい」と⾔われたりもしました。まだ⾃信がなくて断ってしまったんですが、ふだん出会わないような⼈に出会えるのがデザフェスだと思います。

ブースの集客は運営がサポート

--⼤規模会場のなかで埋もれてしまわないためには⾃⼒で集客する必要もあると思いますが、展⽰にはどんな⼯夫をしていますか?

鈴木:私は初めてだったので何もわからず、作品の準備や搬⼊作業などで⼿⼀杯でした。

--ご⾃⾝のホームページやインスタグラムでは英語で発信していますね。

鈴木:表現活動に関しては⽇本よりは海外のほうが開かれている印象(プロ・アマの境界がゆるく、展⽰の場も多い)なので、開かれているほうに向けて発信したいと思って英語にしています。

西浦:僕の作品は⾒ただけでは特殊な技法を使っていることがわかりにくいので、メイキング動画を作ってツイッターや、デザフェスの会場で⾒てもらえるようにしています。告知ツイートはフェスの約1カ⽉前を⽬安にしています。

--SNSでの告知は不可⽋ですね。⻄浦さんの作品はインスタグラムとも相性がよさそうですが。

西浦:僕の場合は技法について⾔葉で説明する必要があることと、リツイートで拡散してもらいやすいとい う理由でツイッターに⼒を⼊れています。しかも、デザフェスの公式アカウントで"リツイートまつり"(参加者のツイート拡散)をしてもらえるので、集客⾯でかなり助かっています。

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デザインフェスタギャラリーブース

展⽰が中⼼なら両⽇参加がおすすめ

--準備の⼿間を考えると、どちらか1⽇しか参加しないというのは、もったいないかもしれませんね。

西浦:展⽰が中⼼なら両⽇参加がおすすめです。ブース設営までの労⼒を考えると、1⽇だけではもったいないです。 僕の場合、準備期間は寝る間もなくなります。展⽰⽤の作品をつくりながら、ポストカードやステッカーな ど販売⽤のグッズもつくります。それらを搬⼊して、⽬に留まりやすいようにディスプレイしたりするわけ ですから。

鈴木:私も2⽇間で参加してよかったと思います。1⽇⽬、友達が留守番をしてくれているときにポストカ ードを買ってくれた⼈が「この絵を描いた⼈に会いたい」と思ってくれたみたいで、2⽇⽬も来てくれたん です。

--1⽇で帰ってしまっていたら、そういう⼈に会わないで終わってしまっていたんですね。

鈴木:あれだけたくさんのものが並んでいるなかで、⾃分の作品に⽬をとめてくれた⼈がいて、その⼈と話 ができたというのはすごく⼤きかったです。

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--来場者も好きな作家さんが出展する⽇に絞る⼈、2⽇かけて回れるだけ回る⼈など、いろいろのようで すね。何か買いたくて来る⼈も多いんでしょうか?

西浦:そうですね、特にアクセサリーは⼈気が⾼く、好きな作家さんのものを買う⽬的で来る⼈が多いよう です。僕は作品展⽰がメインですが、ステッカーなどのグッズは必ず⽤意するようにしています。

⾃分に合ったやり⽅で、⻑く続けていく

--今後の展望についてお聞かせください。

鈴木:私は創作活動を始めたばかりなので、しばらくはギャラリー(デザインフェスタギャラリー)での展 ⽰を軸にして、もう少し成⻑したらデザフェスにリベンジしたいと思います。準備と搬出はほぼ1⼈でやってたいへんでしたが、不特定多数の⼈に⾒てもらうことも⼤事なので。

--広告の仕事をするというような商業的な⽅向を⽬指しているわけではなく、純粋な表現活動をしていきたいんですね。

鈴木:はい。原宿という街が好きなので、今はここを拠点に⾃分がやりたいことを⾃由にやって、作品を出展することじたいに⽬標を置いています。将来的には、海外にもまた⾏きたいと思います。

西浦:僕はこれからもデザフェスに継続して参加するつもりです。出展には費⽤もかかるし、寝ないで準備するのは本当にたいへんですけど(笑)。

--⻄浦さんはネットでも販売しているんですか?

西浦:アルバイトもしながら制作しているので、忙しくてそこまで⼿が回らないのが現状です。ただ、新型コロナウイルスでデザフェスが中⽌になったとき(2020年4⽉)、展⽰の代わりにネット販売をしたら盛況でした。いつもデザフェスに来ていた⼈たちがネットで買ってくれたんです。このときもデザフェスを楽しみにしている⼈がたくさんいるんだと実感しました。

--⾃分がつくりたいものをつくって⽣計を⽴てるのは、なかなか難しいことかもしれないですね。

西浦:⾃分がつくりたいもの(表現したいもの)をつくることと、売れるものをつくることのせめぎ合いは、どの作家さんも抱えていると思います。でも、デザフェスに⾏くと作家だけで⽣活している⼈も多いんです。売れる⼈は本当に売れている。表現⼒があるだけでなく、売りやすい・買いやすいものを考える企画⼒も兼ね備えた⼈がいるんです。

--うらやましいですね! とはいえ、何もかもはできないという⼈も多いのでは。とにかく表現活動を続 けてさえいれば、インフルエンサーのような発信⼒のある⼈が⽬にとめてくれるとか、いろいろな可能性が 出てくるのではと思います。

鈴木:デザフェスは誰でも出展できるので、表現活動に強い思いがある⼈にとってはありがたい場だと思います。決して軽い気持ちで出られるものではないけど、得られることがたくさんあります。

西浦:盛り上がりも徐々に復活してきているように感じますし、イベントを通じて1⼈でも多くの⽅々に作品を⾒ていただけるよう、活動を続けていきたいと思います。

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取材・テキスト:中山 薫
撮影:KENTA UMEDA

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デザインフェスタ vol.55は、2022年5/21(土)、5/22(日)に開催予定。
出展者も現在募集している。 公式HPはこちら
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