「生きる」をコンセプトにアートとファッションを世界に発信するアーティスト、三枝浩子。

           

「生きる」をコンセプトにアートとファッションを世界に発信するアーティスト、三枝浩子。
先の見えない現代での表現と精神の進化を追う。

〔クリエティブ・インタビュー〕

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[profile]
美術家 / ファッションデザイナー
三枝浩子

1978年 山梨県生まれ。
東洋美術学校優秀賞受賞を経て、オランダ、ベルギー滞在。
2003年 ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ美術学校合格。
2015年 ロスアンゼルス「Hive Gallery」グループ展
2016年 東京国立新美術館「現展」入選。
2017年 茨城県つくば美術館「日中韓芸術展」同芸術大賞受賞。東京国立新美術館「現展」会友入選。
2018年 ニューヨーク Agora美術館 グループ展
2019年 ニューヨーク ARTIFACT Gallery 個展
2020年 寺田倉庫WHAT CAFE グループ展出展
2021年 ファッションブランド「PANIACHIROCOS パニアックヒロコーズ」設立
ドイツ ベルリンライブペインティング、フランスパリ、イタリアヴェネチア国際展出展、その他多数。
日本オランダ文化交流芸術大賞受賞、日本ギリシャ文化交流芸術大賞受賞
「活きる」エネルギーを線と面で描き続ける。
赤色、青色を人間の静脈、動脈に、自己カウンセリング業務で3万人以上の相談を受け、日本のリアルを表現する。
2020年 BSフジ ブレイク前夜テレビ番組出演 YBSワイドニュース山梨 テレビ特集出演

https://www.hirokosaigusa.com/bio
https://www.instagram.com/p/CJgKGymAiQ7/

混迷の時間にひときわ強くなった「赤」

午前5時、たっぷり赤を浸した筆がキャンバスを走り出す。

「生きる」という人の根元たる使命をコンセプトとし表現し続けるアーティスト、三枝浩子の日常が始まる。朝食よりも先に絵を描く、朝食は何時でもいい。3時間以上続けることもあれば、30分で終わる時もある。

気づいたら描くという境地に没入している。コロナ禍により社会機能が滞っている時代に、外出や他人との会話が極端に減り、より深く描くことに向き合いやすくなったという。

ここ数年父親の命をも脅かす病に心境穏やかではない日々を過ごしていた。幸い現在、父親は順調に回復し社会復帰している。

「このことで死について深く考えるようになりました」。

死を意識することで人の感情は、ひときわ輝きを増すという三枝。

「死は光。死は美しい。死は怖いと思わない。ただ父親の死を覚悟して泣いたり、お疲れ様でした、という人生を労う感情が溢れたりもしました」。

そんなあらゆる感情が交差する中、作品の色使いに変化が生まれた。赤青黄の原色にしっかり絞り込まれ、その中で特に「赤」だけでも良いかと思うようになっていた。

もともと三枝は血管の動脈と静脈の意味を込め赤と青を基本色としていたが、「赤」は生きるエネルギー溢れる色であり、自らの生きる度合いの強さを反映する色ではあったが、今までよりも「赤」で描いていた一本の線がより太く、強く、シンプルになったという。

自己表現である以上、いかなるアートワークにおいて「自分」は避けられない。キャンバスに如実に現れる三枝の心の中。不安や悲しみは消し去れないが、それらと折り合いをつけるかのように、「赤」の存在が際立ってきた。

「死を考える時間が多くなることで、絵を描いていると体が痛い、描けない、いつか絵を描きながら死んでしまうのではないかと、思うようにもなりました」。そんな時、逆に「生きる」ということをもっと追求しなければならないのではと思いを馳せることもあった。反駁し合う整理ができない思いが錯綜し、自らが本当は何を目的に描きたいのか? という根本的なことすら見えなくなることがあったという。

子供の頃、色鉛筆を買い与えてくれた、絵の道に導いてくれた父親を蝕んだ病は、三枝の心を揺さぶり続けたが、結果的に「死」という「生きる」とは真逆の、避けて通れない宿命に向き合わざるを得ないという覚悟が芽生え、作品の色相をより鮮明に方向づけたのだ。


アートからファッションへの変換

近年、三枝は自身のアートで彩るファッションのビジネス展開を行っている。立ち上げからのブランド「ヒロコジャパン」を2021年より「パニアックヒロコーズ」として輪郭をはっきりさせた。コンセプトは1960年代風、光と闇をテーマとして創り出される世界。そして過去と現代を混ざり合わせる未来だ。

「パニアックヒロコーズ」のアイテムは、サンフランシスコのアパレル会社と提携し、順調に売り上げを伸ばしている。服だけでなく、枕カバー、タオル、マスクも好評だ。

「ファッションをやりたくなったのは、自分の絵を動かしたいと思ったから」。三枝の絵が持つ胎動を思わせる表現の三次元化だ。「ここまで到達できたのも関係者の方々のお支えがあってのことです。本当に感謝しています」と謙虚に語る。

三枝が数10パターンの服のデザイン画を起こし、生地を選び、パタンナーや専門業者とサンプルを作る。出来たサンプルを自ら着て、渋谷、原宿などあらゆるアパレルのショップへ行き、店員に自分のアートをデザインした服であることをアピールする。運良く気に入ってもらえれば、そこで取り扱わせてもらえるようだ。今勢いのある人気ブランドからもコラボレーションの声がかかっている。大手百貨店のポップアップストアで販売の可能性も出てきた。少しづつ前進する「パニアックヒロコーズ」。代官山にショップをオープンさせることが直近の大仕事だ。

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ファションへの展開は通過点。

ファッションビジネスは地道に成果を出してきたが、現在のコロナ禍で三枝の心境は、また違った方向を差し示すようになった。

三枝の作品をインスタグラムで見つけ、高く評価し展示までさせてくれたニューヨークトップクラスのギャラリーのキュレーターが、コロナの犠牲になった。それだけでなく、数多の不幸の知らせを受け、心病む中、この混迷する社会において自分は他に何ができるのか、ということを考え抜く時間が増えてきたという。作品コンセプトである「生きる」ことが持つエネルギーを自らのアートで作られたファッションを通して伝えることができるのではないか。人を元気にさせなければならないのではないか。という使命感がますます強くなったという。

「世界中のあらゆる人に自分の作った服を着てもらい、元気を出してもらいたい。特に、コロナ禍で病床に伏している人たちにパジャマを作って贈りたいと思うようになりました」。

このコロナ禍で、患者の方々に自身が作ったパジャマを着てもらい、少しでも元気になってもらいたい、という強い思いが萌芽したのだ。

「パニアックヒロコーズ」のファッションを世界のコレクションに出展することが当面の目標だったが、この思いから、今は通過点になったという。

「どこまで人々を元気にできるか、その手段が自分のファッション。それが多くの人々の生活に自然に浸透していってほしい」。

そして、「誰かのために生きたい」。

そう思う三枝のファッションの本質的な使命が明確になってきた。


ただ見る人が喜べばいい。

「絵がないとファッションは作れないので、やっぱり絵なんです」。

三枝のファッションは自らの「絵」無くしてはありえない。

SNSで自己表現を世界に発信できる時代。三枝のアートはインスタグラムを通じて日常では縁遠い世界のアート業界を刺激し、海外のギャラリーや美術館、国内の大手百貨店での展示など新たな機会を生み出してる。テレビ番組『ブレイク前夜』(BSフジ)でも取り上げられ、その映像はYouTubeで視聴でき、そこからのオファーもあるという。

https://www.youtube.com/watch?v=BxuEf70m7Xk

昨今、日本のギャラリーは、アートを売るだけでなく、アーティストを育成したり、認知度を上げる施策を持っていたり、運営領域が広がりを見せているという。

一昔前は、当然ではあるが、売れる絵か、ということが絶対条件であったが、最近の傾向は、コンセプトがどれだけ強いか、アーティストがアートにどれだけの時間を費やしているかなど、アーティストの姿勢が評価の対象にもなっているようだ。

ファッションへのアートの多角化など、コンセプチャルにアートに向き合う三枝にとっては、追い風の時代といえる。

ただ、「私の絵はあくまでも独自の表現なので、どんなアウトプットになってもいい。見る人が喜べばいい」と、時代におもねるわけではない。

コロナ禍の影響もあり、展示などは先が見えない状況は否めないが、三枝は気落ちすることもなく日々のオファーの対応や準備を進めている。

直近の目標はトップアーティストの象徴とも言える森美術館での展示そしてパリ・コレクションへの出展。それは、「まだまだ夢」という三枝だが、今まで描いてきた夢を次々と実現させてきた軌跡を眺めると、あながち遠い夢ではなさそうだ。

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人生の中央線

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2021.07.29

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