ライター:森﨑雅世
国内外で評価され長編アニメ化も決定しているウェブトゥーン
みなさんは、縦スクロールマンガ、いわゆるウェブトゥーンを読んでおられるでしょうか? 韓国から広がったウェブトゥーンは、若い世代を中心に世界中で人気を集めています。
マンガアプリからスマホで読める手軽さ、縦長画面を活かしたマンガ表現やスクロールによるスピード感、ウェブだからできるフルカラー......紙で発売することを前提にしたマンガとはまた一味違った特徴があります。
今回ご紹介するのは、韓国のウェブトゥーン『縁の手紙』です。
この作品は、LINEマンガアプリから読むこともできますし、紙の単行本もマガジンハウス社から発売されました。
韓国の「私たちの漫画賞」や中国の漫画賞「金龍賞 海外特別賞」を受賞していたり、長編アニメ映画化も予定されていたりする、人気も評価も高い作品です。
深いブルーグリーンがとても印象的な表紙。
主人公は自然豊かな田舎の中学校に転校してきた孤独な少女。フルカラーマンガならではの美しい色彩がとても心に沁みる感動的な青春マンガです。
新しい環境に馴染めずにいた主人公が見つけた手紙とは
正義感が強くて真面目な女の子、奈月。ある日、奈月はクラスで同級生がいじめられているのを見て「やめなよ」と声をあげます。しかし、そのことをきっかけに今度は彼女がいじめのターゲットになってしまいます。
いじめに耐え切れずに田舎の学校に転校しますが、なかなか新しいクラスに馴染めません。前の学校で体験したいじめの恐怖から、クラスメートたちと積極的にかかわることができないのです。
そんなとき、教室の机の中に、謎の手紙を発見します。
「1」と番号が振られた手紙の中には、クラスメートや教師たちのことなど、新しい学校でどう過ごしたらいいかのアドバイスが書かれています。 そして2番目の手紙の隠し場所も......。
謎の手紙を探す奈月の冒険が始まります。
一人の勇気ある選択が周りを変える
冒険の舞台となる田舎の学校が、少し不思議で素敵な場所にあふれています。
植物が生い茂る温室。ドライフラワーのお茶。「魔女」と呼ばれる魔法が使える用務員のおばさん。廃バスでつくった隠れ家。探し物へと導いてくれる蛍......ちょっと通ってみたくなります。
手紙を探しているうちに奈月はひとりの少年に出会います。彼もまた、奈月と同じように、あることがきっかけでクラスから孤立していました。
謎の手紙を追いかけていく二人には、思いも寄らない展開が待ち受けています。
いじめられている友達を助けるという、自分が「正しい」と思ってとった行動が良くない結果を招いたせいで、行動することにひどく臆病になってしまった奈月。状況を変える力もないのに声をあげたことへの後悔。でも声をあげなかったらもっと後悔していた......?
そんな彼女が、謎の手紙を追いかけるうちに再び、「正しい」選択を迫られます。
果たして彼女はどのような道を選ぶのか。
奈月のように孤独を感じていたり、無力さに苛まれたり、どうしていいか迷っている人には必涙の感動作です!
媒体の違いを生かした表現にも注目!
『縁の手紙』は、ウェブトゥーン版と紙の単行本版の2種類の形式で読むことができるのですが、それぞれの媒体を活かした表現も見どころのひとつです。
ウェブトゥーン版では、スマホの縦長の画面を活かし、画面いっぱいに臨場感や空間・時間の流れを感じさせる表現が随所に現れます。
単行本版では、紙面サイズに合うように編集し直されているのですが、まるで初めから単行本用に描かれたのかと思うような完成度。
例えば物語前半の雨のシーン。上から下へと絶え間なく雨が降り注ぎ、ウェブトゥーンならではの縦長の画面遷移が活きる場面ですが、単行本では左右のページにわたるグラデーションによって、雨とともに奈月に重くのしかかる閉塞感が感じられます。
また、転校初日、自分の席につくために教室を移動する奈月の頭の中で前の学校での経験がフラッシュバックするシーン。リアルと記憶がシームレスに遷移するウェブトゥーンと、ちょうど左右ページで分かれるように配置された単行本版では、また少し違った印象を感じられるのも面白いです。
ほかにも単行本版にあたってコマが組み替えられたり、背景が追加されていたり、ウェブトゥーンのコマを単純に並べただけではないたくさんの編集が加えられています。
ちなみに韓国のマンガは基本的に「横書き」です。
日本語のウェブトゥーンは、横書きから縦書きに変更されていますが、単行本版では韓国版の横書きのまま日本語に置き換えられています。
気になる方は見比べてみると面白いかもしれません。
そして、紙の単行本のラストには、ウェブトゥーン版にはない後日談が追加されています。深いブルーグリーンの色彩が美しい『縁の手紙』。本編では奈月の心証を映すように全体的に彩度を抑えた色調でしたが、それがまばゆいほどの明るいグリーンに変化する......。この物語のラストにふさわしい爽やかな後日談になっています!
2021.11.25